有限会社 三九出版 - 3.11震災と原発事故に遭遇


















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 ☆特別企画☆東日本大震災    3.11震災と原発事故に遭遇

                           
                            田村 英夫(福島県南相馬市)

 日時の経過は速いもので,あれから間もなく1年9ヶ月経過,先の衆議院選挙が民主党大敗で終わった。急造の新党も含めて各党が公約に「脱原発,卒原発」を掲げて国民に訴えたが所詮言葉遊び,遅々として進まない国の復興対策等に怒りを覚える。
 2011年3月11日午後1時頃隣町の相馬市に出かけ,相馬税務署の所得税確定申告を早めに済ませ帰宅中の自宅近くの道路上, 車の中で体に異常な振動を感じて車を止めた。前方を見ると道を歩いていた人が腰をかがめ路面に座り込む姿が見えた。私は止めた車から降りられず,強い恐怖心を増幅させつつ必至でハンドルを握りしめ,異常に長い時間こらえ続けた。軽自動車の中はまるで小船のように前後左右に揺れ動かされ私は何もできない。目の前の電柱電線が上下に大きく揺れ,自宅目前の道路で自宅の屋根瓦が壊れて落下する瓦礫の大音響を聞きながら,妻が大声で「危ない危ない」と自宅で騒ぐ声を聞いていた。一瞬喪失感に襲われ,今何が起きているのか?と我を忘れかける程の衝撃を受けていた。
 まもなく町内各地にある防災無線放送が大地震の影響で太平洋沿岸に大津波が到達すると知らせ,早く高台へ避難をと促す放送を繰り返し流し始めた。
 地震の揺れがわずかに静かになり車を降り自宅に入り,倒れた本棚等を片付けながらTVをつけると東北地方太平洋沖地震の被災状況をリアルタイムの大画像で生々しく放映しており,東北地方の各地にはひどい損害が発生して犠牲者が多く出ていることを知った。(後日マグニチュード9.0という日本観測史上最大で世界でも4番目の地震であったことを改めて知り驚きました。)
 消防署勤務で明け番の二男が帰路,我が家に寄り「大津波が押し寄せてくる予報が出ている。2キロメートル先の高台(桜平山)に避難するように」と促した。妻と孫2名は直ぐに歩いて高台目指し避難先に向かった。私は昔古老から当地は津波より高潮が心配だと聞いており津波は自宅までには来ないだろうと思っていた。しかしその後,短時間の間隔でかなり強い余震が頻繁に続き,もしかして建物が倒壊するのではと一転不安で心配になった。さらに防災無線放送が高台への避難を促す放送回数も多くなり,妻達が避難した高台を目指して避難。途中,河川内を見ると真っ黒な逆流水があわや堤防を越す程になった痕跡があった。いつもはきれいな流水に泳いでいた鯉が押し寄せた津波の急激な増減水のために戻れず,水の引いた堤防小段敷きでバタバタしている光景を多く見て哀れに思った。避難所となった高台に続く道路には避難者の長い車列ができていた。避難所の「生涯学習センター」内は避難者で大混雑しておりボランティアの方が簡単な受付簿を用意していたが,その中から先に避難した妻達を探す苦労は大変難儀であった。次々に避難してくる海岸近くの避難者の中には押し寄せて背中に迫る大津波から何とか自力で脱出してようやく避難できた方がいた。女性の方は津波泥水を跳ね上げ必死で避難所を目指して来た痕跡が衣服に感じられた。
 避難所となった鉄筋コンクリート造2階建の建物も余震の度に大きく揺れて避難者は常に恐怖感に襲われ穏やかではない。避難所では夕食時刻を迎えて急遽炊き出しが始まったが,1回の炊飯ではお握りが少量しかできずに一人1個の制限配給であった。中には制限配給を破り多く配給を受ける浅ましい方もいて残念に思う場面もあった。
 大震災の影響を心配していた東電福島第一原発が3月12日午後3時36分ごろに1号機の原子炉建屋内に充満した水素爆発事故が起きた。日本政府(菅直人首相)の危機管理の杜撰さから指揮系統と現場が大混乱した。国民に寄り添った情報伝達や安全対策が空回りし,高額な国家予算を使い設備した「スピーディ」(放射線影響予測ネットワークシステム)のデータを国民に公開しないで隠蔽してしまった。被災地の行政機関にも届かず,避難者を放射線濃度の高い場所に数日間放置する結果を招いた。私達は総理大臣を直接選ぶ投票はしていないが,菅総理大臣は余りにも軽薄な信頼感のない資質を疑う政治家だったと思う。しかし本人は平気の平左で反省の弁がない。
 私は妻と愛猫1匹の老夫婦で相馬市鹿島区の東電第一原発から32?に住んでいる。原発事故後には市内全域に放射能汚染の心配が広がり,生活環境が日々物資を運ぶ宅配便,ガソリン店,銀行や病院などの職員は無秩序に避難を開始した。不確実な情報が乱れ飛んで数日で市内はまるでゴーストタウン状態となった。
 このような甚大な人災をもたらした原発を推進し原子マネーを懐に入れた政治家や特定の人達,選挙が終った途端に安倍総理大臣や側近からは原発新設政策もあるという。悲惨な原発事故現場を見ても東京に帰ったら国民の生命と安全を忘れたかのような原発推進の一声には呆れてものが言えない。自民党よ,驕るなかれ!! と言いたい。


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