有限会社 三九出版 - 恩返し出来ない分を恩送り


















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               恩返し出来ない分を恩送り

                           松井洋治(東京都府中市)

 
 我が家の体重計によれば,現在七十一歳の私の体内年齢は四十五歳だそうであり,自分では「これが俺の本当の年齢なんだ」と思うことにしている。ただ,残念ながら,今回の三九出版さんからの宿題には,四十五歳としての意見は受け入れて貰えそうにないので,これまでの人生を振り返りながら,日頃の思いを綴ってみることにする。
 思えばこれまで,実に多くの方々のお世話になってきたし,大変な恩義を受けてきた。
 精神的にも経済的にも,やっと多少の「恩返し」が出来る年齢になったが,その「恩を返す」べき相手の方々の大半は,既にこの世の方ではない。ならば,どうすればいいか?
そこで気づいたのが「恩送り」である。
 幸いにも,まだこの歳で,毎週一日だけ某大学で二コマ(計180分)の授業をやらせていただいている。相手は,全員,平成生まれの十九,二十歳の女子学生。それなりのレベルの大学だが,とにかく,キャンパス内ですれ違っても挨拶をする学生は極めて少ないし,講師に対して平気でタメ口(ためぐち=対等な馴れ馴れしい言葉遣い)をきく,歩きながらモノを食べるなど,気にし始めたらキリがない。テストの答案でも「書き言葉」と「話し言葉」の区別がつかない。私のイライラは増幅するばかりであった。
 ところが「世の中は,心ひとつの置き所」で,彼女たちは,これまで,家庭でも学校でも,きちんと教えられていないだけで,むしろ「気の毒な人達なのだ」と思うと,急にイライラは消え,可哀想になってきた。そこで,自分がお世話になった方々に返せない恩を彼女たちに「送る」ことに決め,何か気づくたびに,娘か孫を諭すように,優しく?注意をし,時には「江戸しぐさ」の話などもして聞かせている。大学では珍しいのかもしれないが,私の授業の最初と最後だけは,必ず「起立,礼,着席」をやらせている。すると,いつの間にか,全員ではないが,教室を出る際にも,「有難うございました」と一礼して行く学生が出てきた。
 元々学者ではない私の授業では「普通の社会人として通用する」人間になって卒業してくれれば,それで充分だと考えている。大上段に構えた「使命感」などとは全く意識していないが,今の私の役目だと思っている。

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