有限会社 三九出版 - 小さな輝きに心を留める


















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                 小さな輝きに心を留める

                           鈴木 俊英(神奈川県相模原市)

  私は今72歳を迎えた。退職してから3年目,ようやく地域の人達とのコミュニケーションも出来てきた。さまざまな同好会に参加して気づくことだが,一様に背負った責任から解放されたように和やかな会話ではずんでいる。毎日が楽しい。働き続けた50年の来し方を振り返れば,私たちの世代は誰もがそうであったように,ひたすら働き続けた世代であったと思う。戦後復興から立ち上がり,経済発展,東京オリンピックの招致,新幹線と,一年々々ページをめくるように発展する中で,いつも誰かに追われるように働き続けた。そして今は世界に誇れる豊かな国になった。わずかであっても貢献できたと自負している。
 私は69歳まで現役で働いた。二人の子供もそれぞれに独立して一家を構えた。そろそろ後進に道を譲ろうと決心して引退した。これからは,肩の力を抜いて自分磨きの時代にしたい。
 私は,人生は駅伝競走のようなものだと思う。少年期はしっかりとトレーニングを積んで,青年期,壮年期はたすきを背負って懸命に走る。そして老年期,つまり70歳くらいには次のランナーにたすきを渡して応援に回る。その時点でまだ余力のある人もいるだろう,力を出し切って満足している人もいるかもしれない。それはいろいろあっていいと思う。しかし,応援に回るということは,後ろに回って,今走っている人達をサポートしてあげることだと思う。
 最近,友人の紹介でゴルフの同好会に入っている。70歳くらいの人達の集まりである。「飛馬草会(とばそうかい)」というおしゃれで元気な名称である。しかし,ルールはいたって緩い。ボールが傾斜に止まったら腰を痛めないようにとの配慮から平場に移動して一打罰で進行する。ボールが大きく曲がってコースを外れた,拾いに行こうとするキャディーさんを制して,これも一打罰で打ちやすいところに戻す。そのうちキャディーさんも意を汲んで「あのボールは折り返しに通るからその時拾いましょう」などと言ってくれる。万事ゆるやかに事は運ぶのである。ホールアウト後には,「今日は楽しかったです。また一緒に回りましょうネ!」などと笑顔を向けてくれるのである。気持ちがいい。
 こうして私は,70歳からの自分の立ち位置を見つけたような気がする。イギリスの格言に「立ち止まって花を愛でる人生でありたい」という言葉があるという。あまり欲張らず,ゆったりと周りの小さな輝きに心を留める,そんな70代でありたい。


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