有限会社 三九出版 - ポルトガル滞在記(その4)


















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                    ポルトガル滞在記(その4)

                            山本 年樹(神奈川県川崎市)

6.海の王国
 ポルトガルの前面には大西洋が広がっています。そして暖流のアソーレス海流がユーラシア大陸の縁をかすめてゆっくりと南下しています。15世紀大航海時代の幕開けにポルトガルは他の国に先駆けて,この海流に乗って南下アフリカ西岸を目ざしました。更にバスコ・ダ・ガマはアフリカ南端の喜望峰を回りインドに到達しました。その後もポルトガルは東南アジアへも進出し,一大海洋王国を築きました。
 リスボンは数多くの船団の船出を見送ってきました。時代は進んで,20世紀の著名な詩人フェルナンド・ペソアは海について次のような詩を残しています。「塩辛い海よ、お前の塩のなんと多くがポルトガルの涙であることか。」この詩を目にすると,私はリスボンの夜のファドを思い出します。日本の演歌にも似たファドは,恋人が海に出たまゝ帰らないことを嘆く女の気持を表すのにピッタリです。女性の歌手には黒いショールが似合います。
 海とともに栄えたポルトガルですが,小国のかなしさ,後発のスペイン・オランダ・イギリスにその座を奪われることになります。しかしポ語は世界各地でしっかりと生き残っています。現在ポ語を公用語としている国は,アフリカ5ヵ国(カーボ・ベルデ,ギニア・ビサウ,サントメ・プリンシペ,アンゴラ,モザンビーク)及び東チモール,ブラジルと総人口2.4億人が話しており,世界6位です。これからもその輝きが消えることはないでしょう。

7.ポルトガルとの別れ
 滞在のテーマであったザビエルについての著作「遥かなるザビエル」も脱稿し,名残惜しいけれどカスカイスの家を引き払い帰国することゝしました。貴重な思い出となった5年間を振り返り,別れの詩を作りました。

    さらばポルトガル

  ポルトガルは旅人のオアシスです。
  いつでも温かく異邦人を迎えてくれます。
  自分探しの旅に疲れた男は
  ここに安息の地を見出します。
  ルジタニアの国はどの町を訪れても
  どこか懐かしいデジャブの世界に癒されます。
  見たことのある古い教会のたゝずまい。
  それは幼い頃の南蛮のパドレの記憶が
  蘇るからでしょうか。

  ドウロ、モンデゴそしてテージョが注ぐ海
  屹立する断崖、エスピシェルやサグレスの岬
  カモンイスの歌った地の果から
  ペソアの嘆きの海が茫洋と広がります
  ザビエルが船出したリスボンの岸壁に臨むと
  サン・ミゲル号の船影の彼方に
  栄光の海の王国が遠く蜃気楼のように
  水平線に浮かんできます。
  繁栄と衰退の町ホルムズ、ゴア、マラッカ

  ポルトガルは心に残る思い出と親しい友人をもたらしてくれました。
  同じこころざしを持つ朋との響きあう交わり
  生きる確かな手ごたえを感じたひと時でした
  そして時は移り別離の日がきました。
  いつの日かどこかで……
  再会を期して旅人は出立します。
  アデウス アミーゴス
  アデウス ポルトガル






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