有限会社 三九出版 - 子どもの顔は嘘をつかない


















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〔新作●現代ことわざ〕
               子どもの顔は嘘をつかない


                           
                     松井 洋治(東京都府中市)

 「親バカ」ならぬ「爺バカ」だと笑われそうだが,私のパソコンの初期画面や,携帯の待ち受け画面は,いずれも自分で撮影した孫(女児)の笑顔の写真である。
孫は現在14歳(中三の受験生)だが,使っている写真は,未だ彼女が3~4歳の頃のもの。どんなに疲れていても,パソコンを立ち上げて笑顔の孫を見ると,嬉しくなるし,時には,心が洗われる気までする。理屈ではない。無条件に「有難う!」という言葉が出てくる。
 「はいチーズ!」などと言って無理に笑わせた笑顔ではない。何の邪心も打算も心配もなく,ただひたすらに心の底から笑っている顔だから,見る私も救われるのだ。
 それだけに,テレビや新聞で目にする飢餓や,戦争,天災などで笑顔をなくし,おびえ切った,中には涙をいっぱいに浮かべた子供たちの顔は,大人たちの顔以上に,見るに耐えない。そんな子供たちには,自分の生き方を選ぶ権利も,力も,自由もなく,ただただ親たちにすがるしかないのだ。気の毒という以外に言葉もない。
 ただ,子供たちは,無言で大人たちに訴えているのだ。仲良くして!やめて!と。
 数年前,仕事で福井市を訪ねた際,地元の方にご案内いただいて,「橘曙覧(たちばなあけみ)記念文学館」を見学した。幕末の歌人・橘曙覧を顕彰した施設で,彼の有名な和歌の掛け軸が沢山かけられていた。高校時代に「古文」の授業で教わって以来なぜか興味を持ち,今でも幾つかの歌をそらんじているが,中でも「たのしみはまれに魚(うお)煮て児等皆がうましうましといひて食ふ時」,「たのしみは妻子(めこ)むつまじくうちつどひ頭ならべて物をくふ時」の二首は,食卓を囲む子供たちの笑顔が伝わってくるような気がする。そして「たのしみは三人(みたり)の児どもすくすくと大きくなれる姿見る時」の歌は,親であれば誰しもが詠めそうな一首である。
 時々,本棚から出しては眺めている二冊の写真集がある。一冊は「子どもたちの昭和史」(大月書店),もう一冊は「The Children of Japan 日本のこども」という朝日新聞社が戦後まもなく海外向けに出版したもの。そのどちらにも,これ以上の笑顔はないという笑顔だけでなく,思わず笑いたくなるような泣き顔もある。見終わると必ず私が笑顔になっている。有難う! 子供の顔は,どんな時も嘘をつかないのだ。





 
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