有限会社 三九出版 - 古希過ぎて,百名山 (1)


















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《自由広場》 
             古希過ぎて,百名山 (1)

                    伊藤 晃(埼玉県所沢市)

 いささか旧聞に属しますが,私は2013年10月15日,70歳を過ぎてから深田久弥の『日本百名山』を完登しました。
 『日本百名山』とは1964年,作家で登山家の深田久弥が自分で登った山のうち品格・歴史・個性を備え,かつ概ね標高1,500m以上の山を100座選んで出版したものです。この本は発刊50年以上経った今でも登山愛好家たちの間で支持され続け,山に関心ある一部の人達の間で日本百名山完登が目標のようになっています。
 私の日本百名山完登最後の山は四阿山(あずまやさん:長野県・群馬県,2,354m)でした。この日は大学時代の仲間10人がお祝いに駆けつけてくれて一緒に登頂しましが,折から10年に一度の強さの台風26号接近で,登頂後の下山路は暴風雨が吹きまくり,仲間とともに台風も私の百名山完登を手荒く祝福してくれました。
 この日の悪天候が私の登山を象徴するように私は昔から天気に恵まれない「雨男」でした。登山では天候が安全や快適さを決めるところがあり,山では「晴れれば天国,降られりゃ地獄」です。私は山では天気が悪いのが当たり前だと思っているので雨の山は静かでいい,などと負け惜しみを言って平気で登ります。(本当はイヤです!)それだけにたまに好天に恵まれ,頂上で360度の展望があった時などは狂わんばかりの感激を味わうことができます。(小欲の得)
 ところで,なぜ古希近くになって「日本百名山」を登ろうとしたのかですが,学生時代に体育会のワンゲル部に所属し,日本百名山は別に意識しないで,北・南アルプスはじめ百名山の中でもきつい山は登り終えていました。60歳を過ぎて仕事がヒマになったとき,趣味の山登りのグループに入り再び近場の山を登るようになりました。67歳になった2011年5月にその仲間で福島県の磐梯山(1,819m)に登りました。「そういえば,ここは百名山だよね。ところで百名山いくつ登った?」という軽い話になりました。私は学生時代に相当登っているという自負心もあり,あてずっぽうに「80座ぐらいかなー」と答えたら,同行のUさんが「伊藤さん,幌尻岳(ほろしりだけ:北海道,2,052m,川に橋がなく十数回もの渡渉(川を歩いて渡ること)が必要で,増水した時には登頂できない)には登りましたか? 宮之浦岳(みやのうらだけ:鹿児島県・屋久島,1,936m。島に行くまでに時間と金がかかる)は行きましたか?」と訊かれました。両方とも登っていないので,沈黙せざるを得ませんでしたが,自分の思い込みが恥ずかしくもあり,このことで逆に日本百名山に強い関心を持ちました。
 帰宅して改めて記録と確実な記憶でチェックしてみたらその時点で登り終えていた百名山は80座どころかわずか57座でした。残った43座のうち,私の住んでいる関東から遠いところでは北海道が7座,東北が6座,九州が6座,四国が2座ありました。残りが43座もあり,しかもそのうち半分が遠い山です。これを登りきるには時間とお金,そして体力が必要で,しかも事故のリスクもあることなので考え込みました。この時点での私の登山の弱みはバランス感覚が衰えていること,膝痛と時々襲う太ももの痙攣を抱えていること,一方の強みは時間が十分にあること,そして若いころからの登山経験があることでした。これらの弱み・強み(特に弱み)はその後の実際の登山でモロに現れることになりました。迷いに迷って妻に相談したら,日ごろは心配性の妻が「今しかできないんだから,やればいじゃない」と強く背中を押してくれ,思わず前につんのめりそうになりました。
 計画を立てる上で留意した第一条件は絶対に事故(遭難)を起こさないことでした。ここでのポイントはほとんどの山行が単独行であることです。単独行のメリットは自分のスケジュール調整だけすればいいので計画が立てやすいことと,山中では自分のペースで行動できることですが,デメリットとしては事故のリスクが高いことです。山で道迷いしやすく,また道に迷った時や滑落してけがをした時に複数でいれば助け合えるのですが,一人の時は下界との連絡もつかず大事故になりかねません。67歳といえば自分では元気なつもりでも客観的には立派な「お爺さん」ですから,事故を起こさないように慎重の上にも慎重に計画し,行動しました。ポイントは一に余裕のあるスケジュールを立てること,二には必要にして十分な装備・食料を持参すること,そして最後に山中では決して無理な行動をしないことです。具体的には朝早く出て早く目的地に着き,疲れ過ぎないこと,危ない所には行かないこと,道に迷ったと思ったら前進せず直ちに元に戻ること等です。こうして緻密な計画を立て,本格的なスタートとして2012年6月30日に北海道・利尻岳(りしりだけ:1,721m)に向かっていよいよ出発しました。                     (以下次号)




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