有限会社 三九出版 - 義理と人情も時と場合


















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☆〔新作●現代ことわざ〕

            
            義理と人情も時と場合


          吉岡 昌昭(埼玉県さいたま市)

人間の社会,色々な場面で他人に情けをかけたい時が多々ある。特にお人好しは困った人を見るとすぐ手を貸したくなるし,それが友人や可愛い部下だとさらに甘くなる。諺に「情は人のためならず」(他人に優しくしてやれば,いつか我が身に良いことが返ってくる)とあるが,確かにそういう一面もある。しかし,「情けは仇」という言葉もある。
私自身,困った時,つらかった時,上司や仲間から受けた励ましや温情は生涯忘れられないし,時折思い出してはしかるべく礼を尽くしている。
それに,人に情けをかけるということは気持ちがいいし,それ自体いいことである。しかし事と次第によっては非情に徹することがいい場合もある。私の経験だが,若い頃,リース会社で新卒の採用を担当していた。当時,学生の間でリース業は人気があり,応募者は増えていた。採用は毎年10~15名。面接,筆記,役員面接を経て内定するのだが,当然ながらコネの採用が絡んでくる。大勢を採るのならともかく,少ない採用で縁故が絡んでくると人事はやりにくい。志望者を見て当社に適さないと思う学生もいるが親はそう思わない。役員の関係者,取引先の社長の息子,親会社からの紹介等々いろいろあり,義理で採用したがいずれも途中でやめる羽目になり,若者の人生を狂わせてしまった。そのことを考えると,私は今でも慙愧に堪えない。
それを痛感したのは自分の息子の就職だった。親友の弁護士が顧問をしている上場会社を頼んだのだが,同社の副社長が,先生の紹介なら採りますが,当社にはそういう人が毎年3~4人入社するが殆んどついてこられなくて退職する。だから先ず父親に当社の仕事を説明し,息子さんがやっていけるかどうか話をしてくれと言う。私は断念した。若し,入社していたら息子はノイローゼになっていただろう。そして,その副社長の言葉に感謝した。彼は誠に「剛毅木訥、仁に近い」一廉の人物であった。
サラリーマン社会では「巧言令色」が多いが,本当に相手のことを考えて,直言することが「情」というものだろう。しかし,それでは出世は望めないというのも皮肉なことである。以来,常に中国の故事「宋襄の仁」(注:宋の襄公が,つまらぬ正義感のため戦に負けた故事。無用のあわれみ,見当違いの情)を肝に銘じている
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