有限会社 三九出版 - 〈花物語〉   ア カ シ ア


















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            〈花物語〉   ア カ シ ア

             小櫃 蒼平(神奈川県相模原市)

アカシア ― ふつう日本でアカシアといっているのはニセアカシアで,正しくはハリエンジュという。 仲間のフサアカシアは直径1.5センチぐらいの球状の花が房状に集まって枝につき,たいそう美しい。
1960年5月19日に日米安全保障条約改定が強行採決された。それが広範囲な抗議闘争に発展する。所謂60年安保闘争である。6月15日に全学連の学生が中核になって国会に突入し,機動隊との衝突の中でひとりの女子学生が死亡した。新安保条約は憲法の規定により自然成立したが,ときの総理大臣,岸信介は混乱の責任をとって辞職した。
『アカシアの雨が止むとき』という歌がある。 「アカシアの 雨に打たれて/このまま 死んでしまいたい」とはじまる歌だが,安保闘争が終わったあと,この歌は活動家であった学生たちの間でひとときさかんに歌われた。そしてそれが葬送歌であったのだろうか,あの日の若者たちは「冷たい眼をして/何処かへ消えた」。 その日を境に,ふたたび若者たちがひとつに結集して大きな政治闘争をすることはなくなった。
そのころ,わたしは旅とおんなに明け暮れていた。どちらも政治的な季節の外にわたしを連れ出した。すでに政治的な行動をおのれに封印するくらい,わたしは政治的なことに絶望していたのである。 

    
※資料:「木々百花撰」(高橋治/朝日文庫)/「ブリタリカ国際
大百科事典 小項目電子辞書版」(CASIO)/「アカシアの雨が
止むとき」(水木かおる・作詞 藤原秀行・作曲 西田佐知子・
歌/「’81うたの世界1001曲」集英社)
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