有限会社 三九出版 - 許してやる、と言え!


















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☆〔新作●現代ことわざ〕 

             許してやる、と言え! 

           前岡 光明(東京都町田市) 

この自戒の言葉を思いついたのは,どのような状況だったか? と,問われたが,ありのままを記したら,後で騒動が起こりそうだ。プライバシー保護ということで勘弁願いたい。それで,この言葉をどう使っているか,説明しておく。

「しょうがない,許してやる」と,俺はつぶやく。
あいつが謝りに来たわけじゃないが,俺は独り言。
あいつが,この俺に謝るもんか。
それじゃ,俺が,あいつに仕返しする? ばか言うな……。
どうせ,うやむやになって,俺は不快な感情を引きずることになる。
それなら,はじめから「許してやる」と言って,頭の中からあいつの影を振り払う。

人間というものは,社会生活を営む動物で,一人では生きていけない。
しかし,他の人と付き合うと,思うようにいかず悩むことが多い。
自分の考えを聞いてくれない,自分が無視される,あるいは,自分ばかり嫌なことをさせられる。そんな苛立ちが,誰にもあろう。
腹に据えかね, けんか腰で文句を言って, 相手にも事情があったと知った時は遅い。赤面するだけである。
自分がミスした時は我慢すればいいだけだが,自分の身に他人の失敗が降りかかってくると,心中穏やかでない。また,出世した仲間を妬ましく思うこともある。
そんなことを言う俺は,自分のことは棚に上げて,身勝手な性格だということは,承知している。自分の度量の狭さに恥じ入るだけだ。
後期高齢者ともなると, 他人との付き合いで波風を立てたくない。 そうかと言って, 自分の殻に引きこもって認知症が早まるのは嫌だ。 人付き合いが苦手だった俺は,この頃,この言葉を呟いている。
若い頃にこの言葉を思いついておれば,俺の人生はもっと楽だったろう。 

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