有限会社 三九出版 - モノは考えよう,気は持ちよう


















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☆〔新作●現代ことわざ〕 

          モノは考えよう,気は持ちよう 

             村端 字造(東京都港区) 

 数年前,商事会社を経営している友人・Yから次のような話を聞いたことがある。
 ある地方で都市開発がなされることになり大きなプロジェクトが組まれた。その物件を大手ゼネコンが受注し,下請け,孫請けもその工事に携わっていた。その孫請けの中にYが設立して間もない会社・A社のお得意さんのB社があり,A社はその工事に必要な商品をB社に販売していた。ただ,その受注額があまりにも多額のためもともとの発注者の注文書を要求したところ大手企業・Z社の発注書が届いた。Yは,このプロジェクトは公的なものだし,発注書も大手企業なので問題は起こらないと考え,商品を納入し続けた。ところが,いざ集金となって,一回目は現金小切手で回収したが二回目以降は現金ではなく転譲手形,それも発注先の大手企業発行のものではなく,名前を聞いたことのないC社の発行手形。それでYは発注先のZ社発行の手形に交換することを要求したのだったが,それができないうちにC社が倒産したという。何と,そのC社というのは「詐欺軍団」の旗本だったとのこと。注文書も巧妙な偽造で,それを見破れなかった。結局,Yの会社は6千万円強の被害を被ってしまったという。
 当然のことながら,Yは被害額の大きさ,被害を受けたこと自体が頭から離れず,被害額の回収に奔走した。しかしその成果はなく,逆に本来の業務への集中力に欠けることも出てきた。「これではまずい」と思ったYは,「今回の事をこれまで単に被害者という意識でしか考えてこなかったが,よく考えれば,仕事があるからといってすぐに飛びついたこと,欲と情に流されたことが被害を受けた大きな原因であるから,今回のことを“教材”として見直し,二度とこのような失敗はしないようにするにはどうすればよいかを学ぶことにしよう」と考えたという。つまり,“災難”を“学習”へと考え方を変えたわけである。以後,それを社員にも徹底し,同様な被害は出なくなったとのことであった。
 故事に「人間万事塞翁が馬」というのがあるが,よいと思われたことが悪い結果をもたらすことやその逆のことがよく起こるのが世の中である。あることに対して一つの見方考え方をするのではなく,また別の見方考え方をしてみることも必要であろう。私も何事によらずよく失敗をするが,そんな時,Yのこの話が思い浮かぶのである。 
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