☆【隠居の世迷言】
腹の立つこと
小櫃 蒼平（神奈川県相模原市）
善公 ご隠居，むずかしい顔をしてますね。また何かお腹立ちですか？
隠居 まあ聞いておくれ。あたしが心臓が悪いことはご存知とおもうが，けさ血圧が異常に高くなったので，かかりつけの病院に電話をしました。
善公 それはご心配でしたね。で，何か気にさわることでも……？
隠居 受け付け時間の前でしたので，看護師さんが応対してくれたのですが，その看護師さんは，その程度の血圧上昇ならしばらく様子をみて，心配なら一般外来として病院へ来るように，というのです。そこであたしは，その日の午後はかかりつけの先生の診察があるとわかっていたので，その先生の診察を受けたい，と言ったのです。するとその看護師さんは，その先生の午後の診察は予約者だけなので，予約がない場合は一般外来での受診になる，それがきまりだというのです。
善公 筋はとおりますが，すこし杓子定規な感じがしますね。
隠居 そこで，あたしは看護師さんの指示に従い，10時半に外来受け付けをすませ，診察を受けたのは２時45分（時計で確認）でした。つまり受診まで４時間15分待たされたわけです。それは仕方がないことだとしても，問題は，そのときにはかかりつけの先生の診察がはじまっていたのです。
善公 それなら，かかりつけの先生に，と考えるんじゃないですか。
隠居 おまえさんもそうおもうだろう。かかりつけの先生なら，あたしの病歴もご存じだし、あたしも安心できます。にもかかわらず，そうはいかなかったのです。なぜ？ 〈きまり〉だから ― ということですが，どうもそこがすっきりしない。きまりであるからには，そうするだけの病院の理屈があるのでしょうが，ほんのすこし融通をきかせることによって ― つまりかかりつけの先生が診ることによって，大げさにいえば，あたしの不安は解消され，ふだんのコミュニケーションの積み重ねが，大事に至るかもしれない病気を未然に防ぐことになるかもしれない。医療の〈合理性〉という点から考えても筋がとおるとおもうんですがね。
善公 昨今は病院も経営がたいへんらしいですよ。今回のご隠居のことは，病院内の指示のちょっとした行き違いがあったのかもしれませんね。
隠居 そう考えておきましょうかね。腹を立てるといえば，政治家たちのダメ発言。
これは腹が立つというより，あきれてものが言えませんな。とくに第二次安倍内になってから，多数を恃んでの奢りもあるのか，目に余ります。
善公 暴言，不適切発言，天こ盛りですね。
隠居 たとえば東日本大震災について「まだ東北で、あっちのほうだったからよかった」という今村雅弘復興相（当時）の発言は，その立場を考えたら論外。正確な発言内容は忘れましたが，ほかに山本幸三地方創生相（当時）や務台俊介内閣府政務官兼復興政務官（当時）などの発言が記憶にあります。
善公 稲田朋美防衛相（当時），鶴保庸介沖縄北方相（当時）などの発言も問題になりましたね。
隠居 いろいろありましたね。でも，あたしがいちばん驚いたのは麻生副総理の「いくら動機が正しくても、何百人も殺しちゃったヒトラーはダメだ」という発言です。麻生氏はすぐに「不適切であり、撤回したい」というコメントを出しましたが，ユダヤ人大量虐殺（いわゆるホロコースト）に正しい動機などあろうはずがない。朝日新聞の「社説」は「あまりにも言葉が軽い」という見出しで，これまでも麻生氏にはナチスを引き合いに出した発言があること，政治家にとって言葉は命であることなどを内容とした批判をしています。
善公 あっしのような人間でも，政治家の軽々しい発言には頭を傾げます。
隠居 ところで，あたしが問題にしたいのはここからです。たしかに最近の政治家に は問題発言が多い。でもそれだけだったら， 「近ごろの政治家は質が落ちたもんだ」とでも言っていればよい。でもそれではすまないものがあるような気がします。それは何だろうと考えていたら，その手がかりが見つかりました ― 「撤回します」「誤解を与えました」という言葉です。朝日新聞の「社説」にも「発言が問題視されると、誤解だとして、とりあえず批判をかわす」という批判がありました。事は簡単です。汚い言葉を使えば，国民は「なめられている」のです。選挙のたびに，政治家たちの甘言に何度騙されたことか。あたしなどもおのれの助平根性の所為で何度煮え湯をのまされたことか。はっきり言いたい。政治家の問題発言はわれわれの政治的無関心に対するお返しでもあるのです。政治家の問題発言を阻止できるのはわれわれです。われわれが日ごろから注意深く政治家の言動を監視すること，それ以外にかれらの奢りを粉砕する手立てはありません。
善公 よく考えりゃ，あっしらが政治家を選んでるんですからね。
※参考資料：『朝日新聞』（２０１７．４．１８／２０１７．８．１），『朝日新聞「社説」』（２０１７．８．３１）
腹の立つこと
小櫃 蒼平（神奈川県相模原市）
善公 ご隠居，むずかしい顔をしてますね。また何かお腹立ちですか？
隠居 まあ聞いておくれ。あたしが心臓が悪いことはご存知とおもうが，けさ血圧が異常に高くなったので，かかりつけの病院に電話をしました。
善公 それはご心配でしたね。で，何か気にさわることでも……？
隠居 受け付け時間の前でしたので，看護師さんが応対してくれたのですが，その看護師さんは，その程度の血圧上昇ならしばらく様子をみて，心配なら一般外来として病院へ来るように，というのです。そこであたしは，その日の午後はかかりつけの先生の診察があるとわかっていたので，その先生の診察を受けたい，と言ったのです。するとその看護師さんは，その先生の午後の診察は予約者だけなので，予約がない場合は一般外来での受診になる，それがきまりだというのです。
善公 筋はとおりますが，すこし杓子定規な感じがしますね。
隠居 そこで，あたしは看護師さんの指示に従い，10時半に外来受け付けをすませ，診察を受けたのは２時45分（時計で確認）でした。つまり受診まで４時間15分待たされたわけです。それは仕方がないことだとしても，問題は，そのときにはかかりつけの先生の診察がはじまっていたのです。
善公 それなら，かかりつけの先生に，と考えるんじゃないですか。
隠居 おまえさんもそうおもうだろう。かかりつけの先生なら，あたしの病歴もご存じだし、あたしも安心できます。にもかかわらず，そうはいかなかったのです。なぜ？ 〈きまり〉だから ― ということですが，どうもそこがすっきりしない。きまりであるからには，そうするだけの病院の理屈があるのでしょうが，ほんのすこし融通をきかせることによって ― つまりかかりつけの先生が診ることによって，大げさにいえば，あたしの不安は解消され，ふだんのコミュニケーションの積み重ねが，大事に至るかもしれない病気を未然に防ぐことになるかもしれない。医療の〈合理性〉という点から考えても筋がとおるとおもうんですがね。
善公 昨今は病院も経営がたいへんらしいですよ。今回のご隠居のことは，病院内の指示のちょっとした行き違いがあったのかもしれませんね。
隠居 そう考えておきましょうかね。腹を立てるといえば，政治家たちのダメ発言。
これは腹が立つというより，あきれてものが言えませんな。とくに第二次安倍内になってから，多数を恃んでの奢りもあるのか，目に余ります。
善公 暴言，不適切発言，天こ盛りですね。
隠居 たとえば東日本大震災について「まだ東北で、あっちのほうだったからよかった」という今村雅弘復興相（当時）の発言は，その立場を考えたら論外。正確な発言内容は忘れましたが，ほかに山本幸三地方創生相（当時）や務台俊介内閣府政務官兼復興政務官（当時）などの発言が記憶にあります。
善公 稲田朋美防衛相（当時），鶴保庸介沖縄北方相（当時）などの発言も問題になりましたね。
隠居 いろいろありましたね。でも，あたしがいちばん驚いたのは麻生副総理の「いくら動機が正しくても、何百人も殺しちゃったヒトラーはダメだ」という発言です。麻生氏はすぐに「不適切であり、撤回したい」というコメントを出しましたが，ユダヤ人大量虐殺（いわゆるホロコースト）に正しい動機などあろうはずがない。朝日新聞の「社説」は「あまりにも言葉が軽い」という見出しで，これまでも麻生氏にはナチスを引き合いに出した発言があること，政治家にとって言葉は命であることなどを内容とした批判をしています。
善公 あっしのような人間でも，政治家の軽々しい発言には頭を傾げます。
隠居 ところで，あたしが問題にしたいのはここからです。たしかに最近の政治家に は問題発言が多い。でもそれだけだったら， 「近ごろの政治家は質が落ちたもんだ」とでも言っていればよい。でもそれではすまないものがあるような気がします。それは何だろうと考えていたら，その手がかりが見つかりました ― 「撤回します」「誤解を与えました」という言葉です。朝日新聞の「社説」にも「発言が問題視されると、誤解だとして、とりあえず批判をかわす」という批判がありました。事は簡単です。汚い言葉を使えば，国民は「なめられている」のです。選挙のたびに，政治家たちの甘言に何度騙されたことか。あたしなどもおのれの助平根性の所為で何度煮え湯をのまされたことか。はっきり言いたい。政治家の問題発言はわれわれの政治的無関心に対するお返しでもあるのです。政治家の問題発言を阻止できるのはわれわれです。われわれが日ごろから注意深く政治家の言動を監視すること，それ以外にかれらの奢りを粉砕する手立てはありません。
善公 よく考えりゃ，あっしらが政治家を選んでるんですからね。
※参考資料：『朝日新聞』（２０１７．４．１８／２０１７．８．１），『朝日新聞「社説」』（２０１７．８．３１）
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