有限会社 三九出版 - 見方変えると見えないものが現れる


















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○〔新作●現代ことわざ〕 

          見方変えると見えないものが現れる 

             野口 広鎮(千葉県野田市) 

 十年以上前のことだ。
 友人と,友人の奥さん二名を交えた七名で,ネパールへ行った。
 レンタルした中型バスで,この国の主幹道を走りカトマンズから西へ向かっていた。辺りは花曇りで,空も雲も乳白色になっていた。
 シェルパ族の登山ガイドが,片言の日本語で言った。
 「空を見上げてください。ヒマラヤの山々が見えますよ」
 「えっ!」と,友人たちと私も空を見上げる。――どこにも山なんか見えない。みんなは「どこに見えるんだよ」と口々に叫ぶ。
 ネパールに来て三日目になっていた。まだヒマラヤの峰々を見ていなかった。早く見たい,という気持ちが焦ってくる。ガイドは言う。
 「よぉーく,見てください」と笑っている。すると,友人の奥さんが,「見えたよ!」もう一人の奥さんも,「あれだわ! すっごい」
 男たちの,「どここだよ?」の声,声。
 目をあちこちへ泳がせる。すると,見えた。確かに。天空に雪を被ったヒマラヤの稜線があった。あごを思いきり上げたところに。
 白い峰は花曇りの中に薄っすらと横に斜めに稜線を見せていた。雲だと思っていたものが,ヒマラヤの山々だった。
 それにしても,女性の視点移動の柔軟さに驚く。

 帰国して半年ほどが経ったころだろう。
 残暑も少しずつ和らぎ,秋を感じられるわが家のベランダから,南の空を見るともなく眺めていた。
 ひとかたまりの雲が,あまり高くない所に架かっている。雲の上部は白色で,すぐ下は薄い灰色に,さらに下部は鈍色になっていた。その情景をじっと見ていると,雲はヒマラヤの白い山々になった,いや,そう見えた。
 世の中や生活も,視点を変えれば別のものが見えてくるかもしれない。 
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