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本物語

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第32号 2011.01.29

卒業かな?切手収集

金野 正郎

 「見返り美人」といえば,切手なんぞ全く興味がないという方であっても一度は耳にしたことがあるのではなかろうか。昭和23年の切手趣味週間にちなんで発行された,日本で一番大きい切手だった。翌年の「月に雁」とともに,今でも人気が高い。
 そのころ,切手ブームの始まりか,あるいは高揚期に差し掛かっていたのだろう。買い求めるのも大変だったが,幸いキャンパス内に特定局があったことやバイトで多少の小遣いもあり,額面10〜15円ならシートでも買えた。多くは卒業で終わるのだろうが,どういうわけか,特に熱烈というほどでもないのに就職後も続いてしまった。郵趣会などに参加したこともないのだから,惰性とでもいったらいいかもしれない。
 昨年,毎日が日曜日となり時間はたっぷり。数十冊にもなっていたファイルを整理しようという気になった。記念切手は時系列に「流れ」を追えばいいし,皇室,オリンピック,国体,年賀,切手趣味週間…もそのまま。だが,シリーズモノが難題。花,鳥,お祭り,名園,国宝,古典芸能, 昔ばなし,SL,船,相撲,近代美術,日本の歌,伝統工芸品,洋風建築,高山植物,昆虫,歌舞伎,愛唱歌,民家 etc.
 切手が発行されたその日に消印を押してもらう方も少なくない。私も一時期その初日印を求めて発売日に並んだ。が,その日に出張とぶつかったというケースもあった。奥の細道シリーズはなぜかそういう場面が多かった。途中でパスしたくはなかったし,やむなく後輩に「後で一杯」を約束して初日印を確保してやっとゴールイン。
 初期の竜切手とか,ワケあって未発売となった幻の切手など,額縁に入れておきたいようなお宝はない。せいぜいが年賀切手は,お年玉付きハガキの賞品の小型シートを含めてまずまず。数だけは少なくはないようだが,大半が戦後モノだから「財産」どころか,なんでこんなに無駄遣いをしたの――と皮肉られるのも仕方がない。
切手単独ではないが,一つだけ大事にしているモノがある。「啄木ミニレター」と呼ばれている郵便書簡だ。昭和42年から発行されたとか。そのころ,金の卵ともてはやされた集団就職者を対象にした「故郷への愛の便り」運動だったという。額面15円(意匠は菊)の切手が刷り込まれており,末面には「誰が見てもわれをなつかしくなるごとき 長き手紙を書きたくなる夕(啄木)」の歌も。その企画に携わった郵政マンから頂いたのだが,時には駅頭まで出向き,夜行列車に乗り込む少年たちにプレゼントしたこともあったそうな。黄色の袋には「祝 ご就職」とあった。親許を離れ故郷へ近況を伝えたであろう人たちもすでに還暦を過ぎているハズ。もしもそれが実家に残っていたなら…。読み返すような機会があったことかどうか…。そんな思いが。
 ほんの小さな切手だが,歴史の証人とか世界を結ぶ外交官――などといわれたこともあった。今やメールが主流となり,筆マメなんてどうやら昔話。現在も通用している額面1円の切手に描かれた,郵便の創始者・前島密が先行きを嘆いているかも。年間約40種も発行され「乱発」との声も聞かれる。あがきでなければいいのだが。
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