本物語
第39号 2012.10.15
実験とパフォーマンス
橋本 克紘
2011年9月24日付の朝日新聞第1面トップ記事には「光より速い素粒子発見」というタイトルが付けられている。国際共同研究グループOPERAは,23日ニュートリノが光より速く飛ぶことを示す実験結果を発表した。本当ならアインシュタインの特殊相対性理論と矛盾することになるので衝撃的な記事だった。
ところが,2012年3月31日付のジャパンタイムズ・ウィークリーによると,ノーベル賞物理学者カルロ・ルビアの研究チームICARUSは同様の実験を行い,3月16日ニュートリノの速度が光速を超えないという結果を発表した。次いで2012年6月8日付の朝日新聞夕刊で,OPERAの実験グループが実験機器を確認したところ地上のGPS受信機と地下の実験機器を結ぶ光ファイバーケーブルの接続部に1.5ミリ程の隙間が見つかり,8日京都で開催された国際会議で「光速超え」を事実上撤回したと報じられた。実験条件は厳密に整備されなければならない。
小田急線を使って30数年間通勤した。1971年11月11日午後3時半ごろ小田急沿線にある川崎市生田の市営生田緑地公園内で科学技術庁国立防災科学技術センター,建設省土木研究所,通産省工業技術院地質調査所,自治省消防庁が崖の斜面に水を落として崖崩れの実験をしていたところ赤土が幅30メートルに亘って崩れ崖下にいた20数人が生き埋めになり,14名が死亡し1名が行方不明となった。行方不明となった方は実験に直接関係ないNHKのカメラマンだった(1971年11月12日付朝日新聞)。
新聞では実験の目的が明らかにされていないが, 降水によって崖崩れが生じた結果,このような事故が起こらないように崖の斜面,排水設備等の設計や工事の諸元を求める目的だったのではないだろうか。皮肉な結果となってしまったが,目的に適った実験方法だったのかどうか疑問である。
タイやビルマ(現ミャンマー)から輸入された外米の黄変米が社会問題化したのは小学5年生の頃だった。1954年7月27日付朝日新聞では,滞貨中の6万トンの有毒黄変米の処理について厚生,農林両省は,24日これら輸入米を暫定的に条件づきで配給することに決定したと報じられている。条件とは「2.5%混入のものは1カ月に1日分だけ配給,1.5%から1%までが1カ月に3日分,1%から0.3%までは同5日分配給,0.3%以下なら毎日配給してもよろしい」である。
厚生省の実務担当者たちは,国立予防衛生研究所,農林省食糧研究所,東大,京大,農大などの毒性実験(動物)の中間発表に基づき「1%の最高安全度」を決めたが,首脳部によってこの安全度が上記の条件に変えられた。
1954年8月15日付朝日新聞夕刊には17日正午から厚生省の政務次官室で「黄変米試食会」が開かれ,黄変米を試食する草葉厚相と朝香政務次官の写真が掲載されている。
これらの写真報道は実験の雄弁さがパフォーマンスに利用された結果である。その意図が見て取れ幼稚で微笑ましいが,写真の雄弁さも忘れたくない。
ところが,2012年3月31日付のジャパンタイムズ・ウィークリーによると,ノーベル賞物理学者カルロ・ルビアの研究チームICARUSは同様の実験を行い,3月16日ニュートリノの速度が光速を超えないという結果を発表した。次いで2012年6月8日付の朝日新聞夕刊で,OPERAの実験グループが実験機器を確認したところ地上のGPS受信機と地下の実験機器を結ぶ光ファイバーケーブルの接続部に1.5ミリ程の隙間が見つかり,8日京都で開催された国際会議で「光速超え」を事実上撤回したと報じられた。実験条件は厳密に整備されなければならない。
小田急線を使って30数年間通勤した。1971年11月11日午後3時半ごろ小田急沿線にある川崎市生田の市営生田緑地公園内で科学技術庁国立防災科学技術センター,建設省土木研究所,通産省工業技術院地質調査所,自治省消防庁が崖の斜面に水を落として崖崩れの実験をしていたところ赤土が幅30メートルに亘って崩れ崖下にいた20数人が生き埋めになり,14名が死亡し1名が行方不明となった。行方不明となった方は実験に直接関係ないNHKのカメラマンだった(1971年11月12日付朝日新聞)。
新聞では実験の目的が明らかにされていないが, 降水によって崖崩れが生じた結果,このような事故が起こらないように崖の斜面,排水設備等の設計や工事の諸元を求める目的だったのではないだろうか。皮肉な結果となってしまったが,目的に適った実験方法だったのかどうか疑問である。
タイやビルマ(現ミャンマー)から輸入された外米の黄変米が社会問題化したのは小学5年生の頃だった。1954年7月27日付朝日新聞では,滞貨中の6万トンの有毒黄変米の処理について厚生,農林両省は,24日これら輸入米を暫定的に条件づきで配給することに決定したと報じられている。条件とは「2.5%混入のものは1カ月に1日分だけ配給,1.5%から1%までが1カ月に3日分,1%から0.3%までは同5日分配給,0.3%以下なら毎日配給してもよろしい」である。
厚生省の実務担当者たちは,国立予防衛生研究所,農林省食糧研究所,東大,京大,農大などの毒性実験(動物)の中間発表に基づき「1%の最高安全度」を決めたが,首脳部によってこの安全度が上記の条件に変えられた。
1954年8月15日付朝日新聞夕刊には17日正午から厚生省の政務次官室で「黄変米試食会」が開かれ,黄変米を試食する草葉厚相と朝香政務次官の写真が掲載されている。
これらの写真報道は実験の雄弁さがパフォーマンスに利用された結果である。その意図が見て取れ幼稚で微笑ましいが,写真の雄弁さも忘れたくない。