本物語
第70号 2021.07.20
「日本語」って不思議な言葉ですね!(その13)
松井 洋治
前回(その12。数字と日本語の関係)をお読み戴いた知人から,「物の数え方」につき,「鉛筆」を例にすれば,「いっぽん,にほん,さんぼん」と数によって異なることを,「外国の人たちに理解してもらうには,どう説明すればよいか教えて欲しい」という質問を受けた。日本人の大半は,確かに,「いっぽ,にほ,さんぽ(歩数)」,「いっぴき,にひき,さんびき(魚など)」,「いっぱい,にはい,さんばい(水や酒)」などと,何の疑問も持たずに使ってはいるが,外国の人に納得して戴ける説明など,言語学者でもない限り,多分無理だと思われる。あれこれ調べた限りでは,これは言語学の世界でも「歴史音声学」の範疇に属する大きな研究課題のようで,とても私の手には負えない旨を,その知人に連絡,お詫びをした次第である。
気を取り直して,今回は「日常生活で使われたり,よく見かけられる日本語の表現」について考えてみたい。地球環境保護の観点から,スーパーだけでなく薬局などでも「ビニール袋」は有料化されたが,ある人から「マイ・バッグをご持参ください!と書かれているが、あの表現は間違っていないか?」と訊かれたことがある。理由を聞くと持参の「参」は「行く,来る」の謙譲語,つまり自分がへりくだって相手に敬意を表す言葉であり,自分以外の人(お客)に使うのは間違いでは?というのである。
しかし,これは間違いではなさそうだ。手元の辞書には「持参」=「持って行くこと、持って来ること」としか出ていない。つまり「へりくだる」という意味合いはない。
一方,私の散歩コースにある「染め物・呉服屋」の入口には「しみ抜き、生洗い受け賜ります」という毛筆の貼り紙が一年中出ている。しかし「うけたまわる」には,辞書を引いても「承る」という字しかなく,これは完全な間違いであるが,「受け賜る」の方が「へりくだった表現」だと信じきっているのかもしれない。その店とは特に付き合いはないし,「言わずもがな」と思い,勿論そのままにしている。
書いてから気づいたが,「言う必要もない,言わなくてもいい」の意味の「言わずもがな」という言葉も,考えてみれば面白い表現である。「もがな」は,国語辞典には「強い希望を表す。~したいものだなあ、~であって欲しい」,古語辞典には「~が欲しい、~でありたい」と出ているが,百人一首に「名にしおはば逢坂山のさねかづら人にしられで来るよしもがな」(後半訳:人に知られずにあなたの所へ来る“忍んでゆく”方法があればいいのになあ)とあり,かなり古い日本語であることが分かる。
ところで,「日本語の表現で,是非触れておきたいこと」を思い出したので,忘れないうちに今回,書かせて戴こう。まずは下記の文章をお読み願いたい。
新型コロナウイルスに,世界中の国々で,多くの人々が,様々な恐怖を抱き,色々な対抗策を試みて来たが,不安は益々募り,次々に開発されるワクチンの中には,予期せぬ数々の副反応も指摘され,日本国内でも,度々延長される政府の緊急事態宣言や,変異株と言われる感染力の一層強いウイルスに,戦々恐々の日々である。
……と,ここまでをお読み戴いて,何かお気づきになられたかもしれないが,実は,「国々,様々,益々,次々,数々,度々,戦々恐々」と,意識的に「同じ文字を重ねて使う場合に“国国”とせずに“国々”と,下の字を “々” で表現する言葉」を多用した文章を書いてみた。
ここからが本論であるが,この「々」というのは,「漢字」であろうか? 言い換えれば「漢和辞典」に出ているのか? 最近は,出ている辞典もあるらしいが,正解は「漢字ではないため,出ていない。出せない」のである。では「々」は何か?
出版業界や印刷業界以外の方々では(私も含めて)ご存じの方は少ないであろう。
これは「文字ではなく記号(符号)」であり,国語辞典には「踊り字」(おどりじ)として,「同じ文字を重ねて使う場合,下の文字を略したことを表す符号」と解説されており,書物や文書でも,「々」の他に「〃」や「ゝ」「〱」などを見かけることが多い。その中でも特に「々」は,その形から「ノマ(カタカナのノとマから成る)符号,ノマ記号」と呼ばれているそうだ。調べてみると「ノマ記号」以外にも「踊り字,おどり,繰り返し符号,重ね字,送り字,畳字(じょうじ)」など種々の言い方があるようだ。確かに「代代木」ではなく「代々木」,「複複線」ではなく「複々線」と表記されているし,「時々刻々,赤裸々,講演会々場」なども思い浮かぶ表現だ。
そういえば、アルファベットは初めは「大文字(ABCD…)だけ」であったが,印刷技術の発達に伴い,紙の使用量を節約する目的で「小文字(abcd…)」が考え出されたらしい。過日,NHKの人気番組「チコちゃんに𠮟られる」で知ったことだが,日本の「ひらがな,カタカナ」の成立の経緯とは,多少異なるようだ。
気を取り直して,今回は「日常生活で使われたり,よく見かけられる日本語の表現」について考えてみたい。地球環境保護の観点から,スーパーだけでなく薬局などでも「ビニール袋」は有料化されたが,ある人から「マイ・バッグをご持参ください!と書かれているが、あの表現は間違っていないか?」と訊かれたことがある。理由を聞くと持参の「参」は「行く,来る」の謙譲語,つまり自分がへりくだって相手に敬意を表す言葉であり,自分以外の人(お客)に使うのは間違いでは?というのである。
しかし,これは間違いではなさそうだ。手元の辞書には「持参」=「持って行くこと、持って来ること」としか出ていない。つまり「へりくだる」という意味合いはない。
一方,私の散歩コースにある「染め物・呉服屋」の入口には「しみ抜き、生洗い受け賜ります」という毛筆の貼り紙が一年中出ている。しかし「うけたまわる」には,辞書を引いても「承る」という字しかなく,これは完全な間違いであるが,「受け賜る」の方が「へりくだった表現」だと信じきっているのかもしれない。その店とは特に付き合いはないし,「言わずもがな」と思い,勿論そのままにしている。
書いてから気づいたが,「言う必要もない,言わなくてもいい」の意味の「言わずもがな」という言葉も,考えてみれば面白い表現である。「もがな」は,国語辞典には「強い希望を表す。~したいものだなあ、~であって欲しい」,古語辞典には「~が欲しい、~でありたい」と出ているが,百人一首に「名にしおはば逢坂山のさねかづら人にしられで来るよしもがな」(後半訳:人に知られずにあなたの所へ来る“忍んでゆく”方法があればいいのになあ)とあり,かなり古い日本語であることが分かる。
ところで,「日本語の表現で,是非触れておきたいこと」を思い出したので,忘れないうちに今回,書かせて戴こう。まずは下記の文章をお読み願いたい。
新型コロナウイルスに,世界中の国々で,多くの人々が,様々な恐怖を抱き,色々な対抗策を試みて来たが,不安は益々募り,次々に開発されるワクチンの中には,予期せぬ数々の副反応も指摘され,日本国内でも,度々延長される政府の緊急事態宣言や,変異株と言われる感染力の一層強いウイルスに,戦々恐々の日々である。
……と,ここまでをお読み戴いて,何かお気づきになられたかもしれないが,実は,「国々,様々,益々,次々,数々,度々,戦々恐々」と,意識的に「同じ文字を重ねて使う場合に“国国”とせずに“国々”と,下の字を “々” で表現する言葉」を多用した文章を書いてみた。
ここからが本論であるが,この「々」というのは,「漢字」であろうか? 言い換えれば「漢和辞典」に出ているのか? 最近は,出ている辞典もあるらしいが,正解は「漢字ではないため,出ていない。出せない」のである。では「々」は何か?
出版業界や印刷業界以外の方々では(私も含めて)ご存じの方は少ないであろう。
これは「文字ではなく記号(符号)」であり,国語辞典には「踊り字」(おどりじ)として,「同じ文字を重ねて使う場合,下の文字を略したことを表す符号」と解説されており,書物や文書でも,「々」の他に「〃」や「ゝ」「〱」などを見かけることが多い。その中でも特に「々」は,その形から「ノマ(カタカナのノとマから成る)符号,ノマ記号」と呼ばれているそうだ。調べてみると「ノマ記号」以外にも「踊り字,おどり,繰り返し符号,重ね字,送り字,畳字(じょうじ)」など種々の言い方があるようだ。確かに「代代木」ではなく「代々木」,「複複線」ではなく「複々線」と表記されているし,「時々刻々,赤裸々,講演会々場」なども思い浮かぶ表現だ。
そういえば、アルファベットは初めは「大文字(ABCD…)だけ」であったが,印刷技術の発達に伴い,紙の使用量を節約する目的で「小文字(abcd…)」が考え出されたらしい。過日,NHKの人気番組「チコちゃんに𠮟られる」で知ったことだが,日本の「ひらがな,カタカナ」の成立の経緯とは,多少異なるようだ。