本物語
第70号 2021.07.20
量子論でみる社会と経済 「不確実性」の時代へ
吉成 正夫
経済問題などで議論を交わすとき,「エビデンス」を示す,あるいは「論理的」に説明するのが科学的であるとされてきました。 ところがそれが揺らぎはじめています。物理学の世界では1900年までは,ニュートン力学が揺るぎない権威でした。「量子の父」プランクが16歳のとき大学教授にアドバイスをもらいに行ったところ,「物理学に今後新しい発見はない」と断言されたそうです。
アイザック・ニュートン(1642-1727)が23歳の時,イギリスにペストが大流行しました。彼が通っていたケンブリッジ大学が閉鎖されたため故郷のウールスソースに戻ったニュートンは科学史上に残る偉業を成し遂げました。
その業績とは,第一が「万有引力の法則」です。「あらゆる物体は、その重さ(質量)に応じた力で、互いに引き合う」というものでした。2つ目は「微積分学」です。物体の速度を表す時間変化が判っていれば微積分学を使って物体の加速度(接線の勾配)や移動距離(曲線グラフの面積)を求めることができます。3つめが「白色光は無数の色の光が集まったもので、プリズムに入射したとき色によって屈折が異なる」という発見でした。
ニュートン以前にも「慣性の法則」「運動方程式」「作用・反作用の法則」の運動三法則はガリレオ・ガリレイ(1564-1642),ルネ・デカルト(1596-1650),クリスチャン・ホイヘンス(1629-1695)などによって確立されていました。
「ニュートンの功績は、運動の3法則と万有引力の法則を結び付けることで、天体の運動から身近な物体の運動まで、あらゆる運動を説明できることを示したことです」(東京大学院総合文化研究所/ 和田純夫専任講師)。
(注)「未来はすべて決まっているのか」(ニュートン別冊、Kニュートンプレス、2011)
ニュートン力学では,モノの動きを決めているのはシンプルな法則であって,運動が始まるときの初期条件が決まれば「結果はただ一つに決まる」のです。物体はそれぞれの時刻において空間のどこにありどのような運動をしているかを求めることができます。つまり未来あるいは運命は「決定論的」であると考えていました。
物ごとは「確実性」が支配し,それが科学としての根本概念であるという思想に支配されて,19世紀から20世紀にかけて科学は飛躍的に発展しました。社会科学,なかでも経済学は自然科学の影響を強く受けて「論理性」「統計学」「数式」で説明するようになってきました。
多様で矛盾する人間の相互作用が重要な要素である政治,経済などの社会科学では物理学のような訳にはいきません。人間の活動範囲が地球上に限定されているとき,あるいは原子より大きい世界で私たちが感覚的に認識できるマクロの世界にあっては「ニュートン力学」が有効でした。ニュートン力学に導かれて,科学が発展し進化した結果,人間の世界が宇宙にまで広がり,原子以下のミクロの世界をのぞき込むことができるようになりました。そこにはニュートン力学とは異なった別の原理が支配する世界が展開されていました。宇宙を科学したのはアインシュタインであり,原子以下の世界に挑戦したのは多くの天才物理学者でした。20世紀に入って,ニュートン力学とは全く別の原理の物理学が姿を現しました。それが「量子力学」「量子論」です。
ニュートン力学は今では「古典力学」「伝統的物理学」と呼ばれています。「量子力学」は非決定論であり,不確実性の科学です。それでも半導体など応用範囲は広く,私たちの社会は恩恵を受けています。過去の社会現象,経済指標などは議論の証明の基準にならなくなりました。特に変化の激しい国際政治,国内政治,経済,金融,証券などの関係は,取り巻く環境がどんどん変わります。それらの領域を議論するときは,情報を収集し,分析対象の関係を分析し,仮説を立て,時間の経過とともに仮説を検証していく,そのうえでの所謂「PDCA」の連鎖です。過去データは証明のためではなく,その時点から現在までどのように変化したのかをチェックする点で有効です。「敵を知り、己を知らば、百戦危うからず」と言います。量子理論では,観測者と対象の間に壁はなく,観測しようとすると,相手もこちらを見て変化します。
つまり「観測する主観」と「観測対象である客観」の間にあることを前提にしていた壁が取り払われてしまいました。量子暗号が解読されず安全な理由です。
これから量子コンピュータが急速に進歩していきます。それは自然界のシステムに人間がはじめて踏み込むことを意味しています。自然界にGDPはありません。貯蓄に比して投資額が少額で済むことが,ゼロ金利が続く理由ではないかと考えます。米国はいま大胆な財政プランを実行しようとしていますが金利は落ち着いたままです。
アイザック・ニュートン(1642-1727)が23歳の時,イギリスにペストが大流行しました。彼が通っていたケンブリッジ大学が閉鎖されたため故郷のウールスソースに戻ったニュートンは科学史上に残る偉業を成し遂げました。
その業績とは,第一が「万有引力の法則」です。「あらゆる物体は、その重さ(質量)に応じた力で、互いに引き合う」というものでした。2つ目は「微積分学」です。物体の速度を表す時間変化が判っていれば微積分学を使って物体の加速度(接線の勾配)や移動距離(曲線グラフの面積)を求めることができます。3つめが「白色光は無数の色の光が集まったもので、プリズムに入射したとき色によって屈折が異なる」という発見でした。
ニュートン以前にも「慣性の法則」「運動方程式」「作用・反作用の法則」の運動三法則はガリレオ・ガリレイ(1564-1642),ルネ・デカルト(1596-1650),クリスチャン・ホイヘンス(1629-1695)などによって確立されていました。
「ニュートンの功績は、運動の3法則と万有引力の法則を結び付けることで、天体の運動から身近な物体の運動まで、あらゆる運動を説明できることを示したことです」(東京大学院総合文化研究所/ 和田純夫専任講師)。
(注)「未来はすべて決まっているのか」(ニュートン別冊、Kニュートンプレス、2011)
ニュートン力学では,モノの動きを決めているのはシンプルな法則であって,運動が始まるときの初期条件が決まれば「結果はただ一つに決まる」のです。物体はそれぞれの時刻において空間のどこにありどのような運動をしているかを求めることができます。つまり未来あるいは運命は「決定論的」であると考えていました。
物ごとは「確実性」が支配し,それが科学としての根本概念であるという思想に支配されて,19世紀から20世紀にかけて科学は飛躍的に発展しました。社会科学,なかでも経済学は自然科学の影響を強く受けて「論理性」「統計学」「数式」で説明するようになってきました。
多様で矛盾する人間の相互作用が重要な要素である政治,経済などの社会科学では物理学のような訳にはいきません。人間の活動範囲が地球上に限定されているとき,あるいは原子より大きい世界で私たちが感覚的に認識できるマクロの世界にあっては「ニュートン力学」が有効でした。ニュートン力学に導かれて,科学が発展し進化した結果,人間の世界が宇宙にまで広がり,原子以下のミクロの世界をのぞき込むことができるようになりました。そこにはニュートン力学とは異なった別の原理が支配する世界が展開されていました。宇宙を科学したのはアインシュタインであり,原子以下の世界に挑戦したのは多くの天才物理学者でした。20世紀に入って,ニュートン力学とは全く別の原理の物理学が姿を現しました。それが「量子力学」「量子論」です。
ニュートン力学は今では「古典力学」「伝統的物理学」と呼ばれています。「量子力学」は非決定論であり,不確実性の科学です。それでも半導体など応用範囲は広く,私たちの社会は恩恵を受けています。過去の社会現象,経済指標などは議論の証明の基準にならなくなりました。特に変化の激しい国際政治,国内政治,経済,金融,証券などの関係は,取り巻く環境がどんどん変わります。それらの領域を議論するときは,情報を収集し,分析対象の関係を分析し,仮説を立て,時間の経過とともに仮説を検証していく,そのうえでの所謂「PDCA」の連鎖です。過去データは証明のためではなく,その時点から現在までどのように変化したのかをチェックする点で有効です。「敵を知り、己を知らば、百戦危うからず」と言います。量子理論では,観測者と対象の間に壁はなく,観測しようとすると,相手もこちらを見て変化します。
つまり「観測する主観」と「観測対象である客観」の間にあることを前提にしていた壁が取り払われてしまいました。量子暗号が解読されず安全な理由です。
これから量子コンピュータが急速に進歩していきます。それは自然界のシステムに人間がはじめて踏み込むことを意味しています。自然界にGDPはありません。貯蓄に比して投資額が少額で済むことが,ゼロ金利が続く理由ではないかと考えます。米国はいま大胆な財政プランを実行しようとしていますが金利は落ち着いたままです。