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本物語

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第71号 2021.11.20

「日本語」って不思議な言葉ですね!(その14)

松井 洋治

ここ数年来,自分の老化(後期高齢者)は充分に承知しながらも,とにかく「全く意味の分からない日本語」が増えて,戸惑うことが多くなった。先日,あるTV番組で「この方がバエる」,「いやこうやった方が,もっとバエるよ」という会話を聞いて,大概の日本語は聞けば分かるつもりなのに,「バエる」は全く見当もつかない。しかし,TVのボリュームを大きくしても,やはり「バエる(baeru)」としか聞こえない。
 半ば悔しい思いをしながら,パソコンに向かった。国語辞典は数冊持っているが,「絶対に出ていない」という妙な確信だけはあった。最近の私にとっては「百科事典」や「国語辞典」以上に頼りにしているインターネットで検索した結果,「写真共有SNS (インスタグラム)に写真をアップロードし、公開した場合に、ひときわ見栄えが良く、すてきに見える(映える)という意味で用いられる表現」で,インスタグラムへの投稿を念頭において「写真うつりが良い」という時に使われる言葉らしく,「インスタ映え」の「映え」が動詞として独立したものであることが分かった。だったら「バエる」ではなく「映える(はえる)」だろう…と怒ってみても,どうやらこの言葉は,既に3年前(2018年)の「今年の新語大賞」(三省堂)の第1位に選ばれた言葉であるとのこと。怒ってみても,「あんた,遅れてるよ!」と笑われるのがオチである。
 何とも悔しいが,致し方ない。しかも,その年の「新語大賞」第2位は「モヤる」(「景色ではなく、気持ちがモヤモヤする」の意),第3位は「分かりみ」(「分かる」に接尾語「み」をつけて「理解、共感」を示す場合に使われる言葉)だったようだが,そのいずれの言葉も,私のように,今頃になって初めて知るようでは,若者と対等には付き合ってもらえない気さえする。同じように「バズる」という言葉も,時々耳にする。これもネットで調べた結果によれば,「主にネット上で、あるモノ、コトが、急激、かつ広範囲で話題になる」状態を表す言葉だそうで,英語の「buzz」(「ぶんぶん」という「蜂や蚊のうなり」や「がやがや」という「人のざわめき」)に「る」を付けて動詞化した「日本語」とのこと。もはや「ついて行けない」感じであるが,負け惜しみに違いないとはいえ,何故か,余り恥ずかしいという気がしない。
考えてみれば,言葉は常に生き(活き)ている。我々が長く生きて来た「昭和時代」の「新語・流行語」を調べてみると,「太陽族,よろめき,カミナリ族,青田買い,お呼びでない,モーレツ,ナウい,ぶりっ子,ネクラ・ネアカ,財テク,朝シャン,おたく」などがあり,平成になってからも「アッシー君,地球にやさしい,食べ放題,どたキャン,ぷっつん,キレる」など結構あった。
今や,どの国語辞典にも出ている(市民権を得た?)言葉としては「サボる」(フランス語の「サボタージュ」を動詞化)や「デモる」(英語の「デモンストレーション」を動詞化),更にはドイツ語の「アルバイト」(労働)から「本職や学業の傍らにする仕事」の意の造語「バイト」などは,いずれも簡潔で立派で覚えやすく,かなり以前から使われていたようであり,「新語だから」といっても,一概に批判は出来ない。
 例えば,随分古い話だが,場末の駅前食堂で「他人丼」というメニューを見つけたことがある。「親子丼」ではない「他人丼」,はて?と一瞬考えたが,「親子丼」は「鶏肉と卵」だが,その店の「他人丼」は「豚肉と卵」であった。牛肉が「文明開化」の代名詞にもなった明治初期に牛肉を卵でとじた「開化丼」と呼ばれたものは,現在でもメニューに残っている店もあり,辞書にも登場する。また「他人丼」は,辞書によっては既に取り上げられているものさえある。
 ここで,先に取り上げた「ぷっつん」と「キレる」について,簡単に触れておきたい。どちらも「堪忍袋の緒が切れた」時,つまり,「我慢の限界を越え,自制心を無くした」時の表現である。 「ぷっつん」は糸や紐などが切れる時の音(擬音語)で,堪忍袋の緒が切れた音である。一方「切れる」は,元々は,恐らく,名刀の鋭い切れ味のように,「あの人は頭が切れる人」などと「物事の決断が早く,しかも上手に処理できる優れた人」を指して使われた言い方,つまり「褒め言葉」であったが,現在では逆に,「怒りっぽく,直ぐに文句を言う人」とマイナス評価として使われるケースが殆どで,日本語の面白さ,奥深さを感じる言葉の一つである。
 ところで,先の自民党総裁選挙の時,民放TVの解説者が「〇〇氏の当選の公算が強いですね」と話すのを聞いて,何となく違和感を感じた。「公算」は,手元の「国語辞典」(角川書店)には「見こみ、確率」と出ており,公算が「高い」というのが正しい表現のはず。または「大きい」を使う人もいるが,これは許されるにしても「公算が強い」とは言わない。こんな話題はネットに上げても,≪バずる≫公算はゼロか?
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