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本物語

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第72号 2022330

「日本語」って不思議な言葉ですね!(その15)

松井 洋治

 痛い時は勿論だが,どこも悪くなくても口腔ケアを兼ねて,10数年来,歯科医院に毎月通っている。新年早々治療を受けながら,ふと「お節料理のカズノコを噛む時の音は,何と表現するのが適切だろうか?」と考えた。恐らく正解はないのかもしれないが,「ばりばり」でもないし,「かりかり」でも「むしゃむしゃ」でもぴったり来ない。「こりこり」が最適な気もするが…。更に,食べ物や飲み物を口に入れた時のオノマトペ(音や感じを表す擬音語・擬態語)を集めてみる気になった。思い出すままに集めたものを,「あいうえお」順に並べ替えてみると,次のとおりである。
あっさり,がっつり,カラッと,カリカリ,ガリガリ,キンキン,ぐびぐび,こってり,こりこり,さくさく,さっぱり,さらさら,しこしこ,しゃきしゃき,ツーン,つるつる,ぱくぱく,ばくばく,ハフハフ,ばりばり,パリパリ,ピリリ,プチプチ,ぷりぷり,ふわふわ,ほくほく,ほっこり,ぽりぽり,まったり,もぐもぐ,もちもち,わしわし 
 以上を数えてみると32語になる。このほかにも,探せばもっとあるに違いないし,方言によるオノマトペも,機会があれば集めてみたい。
 誌面の都合もあり,どこまで意を尽くせるか疑問であるが,上記32の一語ごとの解説を試みてみよう。「あっさり」は「ギトギト(これもオノマトペだが)の豚骨ラーメン」の「こってり」に対比される表現といえる。「がっつり」は若い人の間で「しっかり,たくさん食べる」の意として使われているようだ。「カラッと」は,野菜の天ぷらや鶏のから揚げなどが浮かぶ。「カリカリ」は何となく硬いものを噛む時で,高級レストランの野菜サラダの上に乗せられたベーコンを思い出す。「ガリガリ」は夏になると必ず食べる「ガリガリ君」というアイスキャンディーだ。「キンキン」に冷えたビールも夏。「ぐびぐび」は考えてみれば面白い表現だが,やはりビールの喉越しは,これしかない。「こりこり」では「たくあん」が先ず浮かぶが,焼き鳥の「つくね」に混じった軟骨を噛む時の快感だろう。「さくさく」は,揚げたての天ぷらの「ころも」を噛む音。時間の経ってしまった天ぷらでは,この音はしない。「さっぱり」感は,口の中が爽やかになった時。「さらさら」は無条件で「お茶づけ」。「しこしこ」は,コシのある「うどん」の歯ごたえ。「しゃきしゃき」は新鮮な野菜。「ツーン」は口よりも鼻に来る「ワサビ」のあの強烈な刺激感だ。「つるつる」は「うどん」「そうめん」を筆頭に麺類を食べる(すする?)時のあの快感表現。食べる時に音を立てることを軽蔑する欧米の人には,気の毒にも生涯感じられないもの。「ぱくぱく」は夢中で食べる時の表現で,ラグビー選手の食事風景などは「ばくばく」の方がぴったりだろう。「ハフハフ」は,恐らく「ハーフーハーフー」が原型だろうが,とにかく「肉まん」や「あんまん」,「焼き芋」などを,ヤケドをしないように息を吹きかけながら,寒さしのぎの温かい(熱い?)食べ物を口に入れるさま。「ばりばり」と「パリパリ」は「せんべい」や「海苔」を噛む音。湿けてしまった海苔は音もしない。「ピリリ」は「山椒は小粒でピリリと辛い」で有名だが,味というより香りと,舌がしびれるような辛さの表現だろう。「プチプチ」は,冒頭に触れた「カズノコ(数の子)」のあの小さな粒を噛んで潰す感じだが,割れ物などを包む緩衝材としてのビニール製品を思い出す。「ぷりぷり」は新鮮なエビや魚を口にした時の心地よさだ。「ふわふわ」は焼き立ての「卵焼き」や「食パン」を口にした時の柔らかさだろう。「ほくほく」でまず浮かぶのはハフハフで触れた「焼き芋」だが「栗」や「カボチャ」も「ほくほく」している方がうまい。「ほっこり」は「京ことば」だと聞いたことがある。やっとひと仕事終えて,「気持ちがすっきりした,ほっとした」感じを表す言葉が,何となく心身ともに温かくなるような食べ物にも使われるようになったとのこと。やはり「焼き芋」が好例だろう。「ぽりぽり」は「人参ポリポリあーおいしい」という歌があるが,「たくあん」を,「こりこり」ではなく,おちょぼ口で「ぽりぽり」と噛む女性の方が私は好きだ。「まったり」は,手許の国語辞典「大辞林」によれば「まろやかで、こくのある味わいが、口中にゆったりと広がっていくさま」とある。先述の「ほっこり」に似ているが,もっと味わえる時間が長い表現だと思う。「もちもち」は,当然「餅」から来た粘りけを表す言葉に違いないが,「漢和辞典」によれば「米、粟、稗(ひえ)、黍(きび)」など粘りけのある穀類を総称して「糯(もち)」といい,それを蒸して搗(つ)いた食べ物を「餅」というようだ。最後の「わしわし」は,最近は余り聞かれなくなり,「がっつり」と言うようだが,「勢いよく、たくさん食べるさま」,そう「あつあつの卵かけご飯」を豪快に掻き込む姿を表現する際にぴったりだ。身近な食生活,楽しく「もぐもぐ」しよう!
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