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本物語

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第74号 2022.12.10

量子論でみる社会と経済 ⑤ 量子は,私たちの心と体

吉成 正夫

 「量子論」と聞くと,友人たち(文系)は「難しそうだ」「あまり触りたくない」という感想をもつようです。実は「量子論」というのは,こと人間社会に関しては「私たちの心と体」と言い換えてもよいと考えます。自分自身の身体が難しそうだから触りたくないという方はいらっしゃらないでしょう。量子論が複雑で曖昧で,それでいて魅惑に満ちているということは,つまり私たち自身の心や体が「複雑で曖昧で魅惑的な存在」ということです。
 かつて,なぜ経済や投資の理論が経済の実態やマーケットと乖離しているのか不思議に思っていました。そうした時に,私が座右の銘にしていたのは「色即是空、空即是色」でした。つまり「この世のすべてのものは,実体がなく(空),関係性のなかで存在し(縁起),時々刻々と変化していく(無常)」とうことです。これは人生の真理であると信じていますが思想であり哲学です。信ずるかどうかの世界です。一方「量子論」は科学です。今年のノーベル物理学賞は「量子もつれ」でした。受賞者はフランスのアントン・アスペ、アメリカのジョン・クラウザーで,いずれも40年前の業績です。そしてオーストラリアのアントン・ツァイリンガーは,いわゆる「テレポーテーションン」の実験の成功で,これは20年以上前の業績でした。「量子もつれ」では日本人の物理学者が貢献していますので期待していましたが残念でした。
 いまの科学は目覚ましく進歩しています。量子力学は次のステップへ飛躍しているそうです。量子の特性の中に「運動量をもつが内部構造を持たない」がありました。しかしこの特性では物理学上の矛盾が生じることから,内部構造は「ひも」ではないかとする「超弦理論」(注)が研究されています。
(注)「超弦理論入門」(大栗博司著、講談社、2013年)
 一口に「ひも」といっても,量子の細かさの更に倍近くの細かさまでいかなくてはなりません。「ひも」の状態では「重力」も仲間入りして,アインシュタインの相対性理論とも整合性が取れ晴れて「大統一理論」になると期待されています(シェルダン・L・グラショウ教授:ボストン大学素粒子物理学者の「ウロボロスの蛇」)。
 量子力学の先には広々とした地平線が広がっていて,私たち人間のさまざまな謎と神秘が解明されていくと思われます。人間の生命,意識,そして混とんとした国際政治,経済も量子論的に考察することがより現実的であると考えます。
量子論と防衛費
 デンマークのニールス・ボーア(1885-1962)は世界中の俊秀を指導して量子論を完成させました。ボーアは量子論が示す物質観,自然観を「相補性」という言葉で表現しました。「互いに相いれない事象が、互いに補い合って一つの事象や世界を形成する」という考え方です(注)。
(注)「ニールス・ボーア論文集   1 因果性と相補性 、岩波文庫、1999」
 量子論では,「粒子と波」「位置と運動」が相補性とされます。量子は波の状態と粒子とは相いれないのですが環境の変化で,いずれかの性質が表れてきます。また「位置」を確定しようとすると「運動量」が決まりません。このように「位置と運動量」や「粒子と波」の概念は互いに補完的な関係にあります。私たちの心や体は量子抜きでは語られません。二つの事象が相互に強くなったり弱くなったりしながら進行していくことが多く,人間社会の答えが一つに決まることはない,と言えます。
 例えば現在の防衛費をGDPの2%,つまり現在の予算額の倍増の話が進んでいま
す。憲法の前文には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とあります。どこに「平和を愛する諸国民」がいるのでしょうか。日本の一衣帯水の先には核兵器を武器に日本の安全を脅かそうとしているロシア,中国,北朝鮮に囲まれています。ロシアのウクライナ侵攻は,戦後の国際協調体制が終わったことを示しています。これまでは日本の安全はアメリカの核の傘で守られてきたと信じてきましたが,その辺の神話も揺らいできました。自分の生命と安全はウクライナ同様に自分で守るしかないことがはっきりしてきました。悲惨な大戦を経験して,平和憲法ができ,国連ができました。戦後70年を経て,それらが形骸化してきました。自らの生命と安全守るには「護憲」から「自主防衛」へと基軸が大きく振れてきました。これも「相補性」の一つの事例です。さきに人間社会は「関係性」のなかにあると述べましたが,「関係性」は静態的で「相補性」は動態的と言えます。いずれにしましても社会は量子の特性の掌(たなごころ)のなかにあるのです。社会現象をそのように捉えるなら現実から大きく乖離することはありません。
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