本物語
第74号 2022.12.10
何だか変だぞ~一東京の水と富山の食の不思議
木村 孝
深夜まで飲み続け終電の時間もとうに過ぎた。新宿からは私のアパートの方が近いため一緒に飲んでいた田舎出身の後輩を私のアパートに泊めることにした。夜中に気配がして目覚めると冷蔵庫を開け何か探しているようだ。どうした?と聞くと,水を買ってくれば良かったと言う。喉の渇きを潤すのに水を探していたようだ。一人暮らしの冷蔵庫にはビール以外の飲物は入っていない。コンビニで水を買いに行くと言う。わざわざ買いに行かなくても水道水で我慢しろよと言うと,水道水は飲めないと言うのだ。不純物が心配でいつもミネラルウォーターを買っているそうだ。日本の水道水は安全なのに,「東京の水道水にも慣れ」なんて言うが,こいつは一生東京の水に慣れることはないんだな。東京時代,そんなことを思ったのを覚えている。それからは自分もたまにだが水を買うようになった。自分の場合は専ら水割り用だったかな。
富山に戻ってからは水を全く買わなくなった。水道水で十分,文字通り「みずがあう」のだ。富山市は水道水をペットボトルに詰めて〈とやまの水〉として販売しており,モンドセレクションで10年連続金賞を受賞している。しかし地元のコンビニやスーパーでは販売していない。水を買う習慣が極めて少なく,売れないからだ。
水道水でも十分だが我が家では山の湧水を定期的に汲みに行ってそれでご飯を炊いたりお茶を飲んだりしている。富山に戻ったばかりの頃は何でわざわざと思ったけれど,今では木々に囲まれた澄んだ空気の中で自然の恵みに感謝しながら水を汲むこと自体が贅沢だと感じるようになった。
富山に住んでいると言うとお魚が美味しくていいねとよく言われる。富山湾は天然の生け簀と言われるほど魚種が多く,氷見の寒ブリ,新湊の紅ズワイガニ,富山湾の海の宝石白エビ,春が旬のホタルイカなど名物が沢山ある。では漁業は盛んなのかと言えばどうもそんな風に感じないことがある。スーパーの鮮魚コーナーに並んでいるブリは九州産ばかりだし富山で水揚げされた魚も少ない。釣りが好きでたまに海辺に行くが,漁師さん達のほとんどはお年寄りだし,船がわんさか航行している様子もなく活気に溢れている感じがしないのだ。気になって調べてみた。近年の漁獲高では富山県は全国24位で全国平均を大きく下回り何と東京都よりも少ない。東京都には小笠原や伊豆七島が含まれるというカラクリはあるが。人口=消費量とすると大消費地の東京の方が多いのも頷ける。一人当たりなら富山の方が多いと思うけれど。
また富山に限らず漁業従事者の高齢化が社会問題になっている。船に乗る大半の人達が60歳以上で一般の会社で言うと定年退職した人達ばかりで成り立っている。世界的には魚料理が主の日本食がブームだそうだが,実際は日本の食卓は輸入魚と養殖魚に頼っているのが現状のようだ。漁師さん達の後継者不足は深刻でこのままだと獲れたての近海魚が食べられなくなってしまうのではないかと危惧する。
今年の春はホタルイカが豊漁だった。せっかく買いに行ったのにホタルイカ売ってなかったと秋田出身の友達の奥さんが不満げに言った。それって水曜日じゃなかった?と聞くと,うん,水曜との返事。水曜日は市場も漁師さん達も休みなのだ。旬の売り時も大事だけど休みも大事。漁師さん達の働き方も随分様変わりしているようだ。
夏野菜と言えばトマトにキュウリにナスなど。スーパーの野菜売り場ではその時期に新鮮で安価な夏野菜が沢山並んでいるものと思われる。ところが富山のスーパーではその時期トマトやキュウリやナスの売場が縮小され陳列量もわずかになる。これは富山だけでなく他の地方もそうかもしれないが,簡単に育てられる自家野菜が大量に出回るためスーパーでは売れなくなってしまうのだ。特に富山県は持ち家率が高く,しかも敷地面積も広い。農家でなくてもほとんどの家の庭の一角に畑があり野菜を栽培しているのだ。今年初めて春に野菜苗の専門店に行った。苗を買う人があまりに多いのに驚いた。流通ベースで富山県の野菜出荷量が全国で最下位という理由も頷けた。トマト,ナス,ピーマン,青じそ,しし唐を植えた。毎朝水遣りしながら日に日に大きく育つのを見るのが楽しみになっている。
持ち家率の高さが自慢の富山県,自分の家を持って一人前とよく言われる。しかし市街地はどんどん郊外に拡がって昔からの中心市街地の空洞化が問題になっている。県庁所在地の中心市街地の人口密度が全国で一番低いのが富山市らしい。人口減少社会や超高齢化社会になってしまった今,街なかの活性化を目指したコンパクトなまちづくりが注目を集めている。立派な建物が増えてきているが中心部には庶民派のスーパーも野菜を植える畑もない。
富山に戻ってからは水を全く買わなくなった。水道水で十分,文字通り「みずがあう」のだ。富山市は水道水をペットボトルに詰めて〈とやまの水〉として販売しており,モンドセレクションで10年連続金賞を受賞している。しかし地元のコンビニやスーパーでは販売していない。水を買う習慣が極めて少なく,売れないからだ。
水道水でも十分だが我が家では山の湧水を定期的に汲みに行ってそれでご飯を炊いたりお茶を飲んだりしている。富山に戻ったばかりの頃は何でわざわざと思ったけれど,今では木々に囲まれた澄んだ空気の中で自然の恵みに感謝しながら水を汲むこと自体が贅沢だと感じるようになった。
富山に住んでいると言うとお魚が美味しくていいねとよく言われる。富山湾は天然の生け簀と言われるほど魚種が多く,氷見の寒ブリ,新湊の紅ズワイガニ,富山湾の海の宝石白エビ,春が旬のホタルイカなど名物が沢山ある。では漁業は盛んなのかと言えばどうもそんな風に感じないことがある。スーパーの鮮魚コーナーに並んでいるブリは九州産ばかりだし富山で水揚げされた魚も少ない。釣りが好きでたまに海辺に行くが,漁師さん達のほとんどはお年寄りだし,船がわんさか航行している様子もなく活気に溢れている感じがしないのだ。気になって調べてみた。近年の漁獲高では富山県は全国24位で全国平均を大きく下回り何と東京都よりも少ない。東京都には小笠原や伊豆七島が含まれるというカラクリはあるが。人口=消費量とすると大消費地の東京の方が多いのも頷ける。一人当たりなら富山の方が多いと思うけれど。
また富山に限らず漁業従事者の高齢化が社会問題になっている。船に乗る大半の人達が60歳以上で一般の会社で言うと定年退職した人達ばかりで成り立っている。世界的には魚料理が主の日本食がブームだそうだが,実際は日本の食卓は輸入魚と養殖魚に頼っているのが現状のようだ。漁師さん達の後継者不足は深刻でこのままだと獲れたての近海魚が食べられなくなってしまうのではないかと危惧する。
今年の春はホタルイカが豊漁だった。せっかく買いに行ったのにホタルイカ売ってなかったと秋田出身の友達の奥さんが不満げに言った。それって水曜日じゃなかった?と聞くと,うん,水曜との返事。水曜日は市場も漁師さん達も休みなのだ。旬の売り時も大事だけど休みも大事。漁師さん達の働き方も随分様変わりしているようだ。
夏野菜と言えばトマトにキュウリにナスなど。スーパーの野菜売り場ではその時期に新鮮で安価な夏野菜が沢山並んでいるものと思われる。ところが富山のスーパーではその時期トマトやキュウリやナスの売場が縮小され陳列量もわずかになる。これは富山だけでなく他の地方もそうかもしれないが,簡単に育てられる自家野菜が大量に出回るためスーパーでは売れなくなってしまうのだ。特に富山県は持ち家率が高く,しかも敷地面積も広い。農家でなくてもほとんどの家の庭の一角に畑があり野菜を栽培しているのだ。今年初めて春に野菜苗の専門店に行った。苗を買う人があまりに多いのに驚いた。流通ベースで富山県の野菜出荷量が全国で最下位という理由も頷けた。トマト,ナス,ピーマン,青じそ,しし唐を植えた。毎朝水遣りしながら日に日に大きく育つのを見るのが楽しみになっている。
持ち家率の高さが自慢の富山県,自分の家を持って一人前とよく言われる。しかし市街地はどんどん郊外に拡がって昔からの中心市街地の空洞化が問題になっている。県庁所在地の中心市街地の人口密度が全国で一番低いのが富山市らしい。人口減少社会や超高齢化社会になってしまった今,街なかの活性化を目指したコンパクトなまちづくりが注目を集めている。立派な建物が増えてきているが中心部には庶民派のスーパーも野菜を植える畑もない。