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本物語

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第76号 2023.8.25

量子論でみる社会と経済 ⑦ 「チャットGPT」」にどう向き合うか

吉成 正夫

 チャットGPTの衝撃
 昨年11月にOpenAI社が開発した対話型AI「チャットGPT」は,あたかも人間が応答しているかのような流暢な文章を生成し大きな衝撃を与えました。
 チャットGPTが学習したデータ量は文庫本換算で2億2000万冊に相当します(日本経済新聞)。世界の図書館で最大を誇るのは米国国会図書館ですが,それでも3100万冊にすぎません。チャットGPTが学習したデータがいかに膨大なものかが分かります。GPT―4が米国司法試験の模擬試験を解いたところ上位10%の合格レベルであったそうです。
 AIは1960年来,未来の夢と現実の厳しさとの間で,「ブーム」と「冬の時代」を繰り返してきました。次の理由から,いまは第3次ブームの最中にあります。
 第一にAI技術の高度化です。2006年,人間の神経回路を模した多層ニューラルネットワークの学習が開発されました。次に人間がAIに教えこむのではなく機械自身が経験から自動で改善する機械学習へと進化しました。またAIが目を持った(画像から猫を認識することに始まる)ことも進化に貢献しました。
 第二に,1990年代にインターネットの技術が民間に解放されてから電子メール・スマホなどが普及しました。情報媒体は紙から電子空間へシフトしたのです。そして今回の大規模言語モデル(LLM)に基づく対話型生成AI「チャットGPT」の出現です。日常の言葉で誰でも使えるAIへの飛躍です。
 チャットGPTが発表されてから利用者は2か月で1億人になりました。その後の統計は発表されていませんが,あまりにも気軽に利用できるので統計で把握することが意味を持たなくなったのでしょう。それほど「誰でも,いつでも」気軽なAIになったのです。小学校で「チャットGPT」を授業で使っている光景がテレビで紹介されていました。生徒がどのようにAIに向き合っていったらよいのか。まだ時代を先取りする学校のみで,1割にも満たないそうです。こうした試みは急速に学校全体に広がっていくはずです。業務に生成AIを取り入れている会社が出てきました。なかには社員全員が自分の職務に生成AIを活用する体制にしたところもあるそうです。
 これまでAIにどのように向き合うかは「頭の体操」の感がありました。 ところが「チャットGPT」の出現でAIが現実にその姿を現しますと課題もリアルになります。
 「チャットGPT」の問題点
 第一が,「空虚なAI」の出現です。
 「チャットGPT」が大規模言語モデルを使って完成したことは,単に「最も確からしい次の単語」を計算して次々に空虚な文章を綴るだけです。人間が文章を書くときのような意味内容とは全く無関係な出力機能だけの機械とさえ言えます。翻訳やシステムコードなど効率を高めるものがありますが,膨大な学習データへの期待感と内容の空虚さとの落差が人々を困惑させています。
 量子論で想定していたAIの役割は過去の情報を効率的に収集し,仕事の生産性を上げることでした。これまで高い報酬を得ていたホワイトカラーの事務や企画,教師や弁護士,会計士,メディアなどの仕事の多くをAIに渡すことで,人間とAIの役割分担がはっきりして生産性が大幅に上昇するはずでした。それによって人間は現在の課題解決に専念できますし,AIが苦手な五感にもとづく「身体知」の新たな領域を開拓することが期待できます。これまでの生産性向上の多くは企業の利潤に組み込まれました。これからは労働時間短縮に回すことで人間らしい豊かな生活も期待していました。ところが「空虚な内容のAI」で想定外の方向に向かっています。
 第二に,「デジタル格差」の問題です。
 最近,銀行の窓口・ATMの振込手数料が金額の多寡によらず大幅に引き上げられることになりました。スマホなどデジタル操作できない人は銀行と取引しなくてもよいと宣言されたようなものです。高齢化で足腰が弱り,買い物もままならず,孫の顔を見られないと嘆く友人が沢山います。こうした不便さ・不満はデジタルが容易に埋めてくれます。 「最近の子供はスマホを握って生まれてくる」という冗談を聞きます。さきの小学生たちがAIを巧みに操作しながらこれからの人生を渡っていき、一方デジタルに無力な高齢者との「デジタル格差」を考えるとき,将来の世代ギャップが広がって家族の形がどのようになっていくのでしょうか。地方の過疎化を埋めてくれるのも若者たちです。高齢者がデジタルに取組み易い制度設計をしないと都会から若者を招き入れ地方を活性化するのは難しいのではないでしょうか。
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