本物語
第77号 2023.12.25
不治の病・膠原病からの生還
小野寺 晟一郎
いい歌,いい話のタイトルで
は,若山牧水の作品として広く知られる。牧水は,生涯で,8000首を超える短歌を残しているが,そのテーマは多彩で,酒,旅,鳥,魚,草木や花,空,海,山などの自然,家族,友人等々,さまざまである。中でも,「私は初めから鳥でなかったことを悲しみます。」と述べている(文学仲間(女性)への書簡)ほどに心を寄せていた鳥については,全詠歌の1割ほどにあたる849首を詠んでいる。
このたび,沼津市制発足百周年を記念して,公益社団法人沼津牧水会から,文庫本『牧水 鳥』が発刊され,これらを全部が収載されているので,紹介したい。
この本には,牧水の作品のうち,鳥に因んだものが網羅されている。 8000首以上の短歌の中からは,「鳥に因んだ短歌」849首(全体の約1割)がすべて収録され,短歌篇としてメインに据えられており,次いで,童謡32篇,詩2篇,随筆11篇,紀行文8篇が収載されている。
この本の前半を占める短歌篇についてみると,第一の特徴は,849首の短歌が,鳥の名称の五十音順に並べられており,その名称ごとに,カラー写真が添えられ,かつ,その鳥についての解説が略記されていることだ。 名称には,「あおさぎ」,「あおじ」に始まって,牧水が好んで詠んだ「うぐいす」,「ほととぎす」など具体的な固有の名称,「うみどり(海鳥)」,「しらとり(白鳥)」,「みずとり(水鳥)」といった総称的なもの,「ことり(小鳥)」,「とり(鳥)」という包括的なもののほか,「かいちょう(怪鳥)」,「くるいどり(狂ひ鳥)」といった仮想的なものがある。
鳥についての知識がなくても,気軽に短歌の雰囲気を鑑賞できる。一つ一つを味わえば,牧水が幼少期より,いかに自然に触れ,鳥たちと親しんできたかがうかがわれる。
鳥の化身であるかのような牧水のことを,歌人佐々木幸綱は,その著作「歌は翼」の中で,「最晩年の彼は、ほとんど鳥類に近くなっていたのではなかったか」と述べ,また別の箇所で,「牧水は鳥だったのだ。旅をする渡り鳥だったのだ、と一人合点し・・」と記しているほどである。
幾山河越えさり行かば寂しさの終てなむ国ぞ今日も旅行く (「海の声」「別離」)
この歌には,鳥に因んだ言葉は一語もなく,文庫本『牧水 鳥』に収載されてもいないが,渡り鳥と化した牧水の心が生んだ作品ともいえるのではないか。同様なことは,次のような作品にも感じられる。
山越えて空わたりゆく遠鳴の 風ある日なり山ざくら花 (「海の声」「別離」)
海見ても雲あふぎてもあはれわがおもひはかへる 同じ樹蔭に (同上)
次に,849首の短歌については,その出自がわかるようにとの配慮から,これらの短歌が詠まれ,公表された時期の順を追って定めた番号1~849(いわば歌番号)が各歌の後に付され,編末には,その歌番号に沿って公表文献が「註記」されている。その量は,15ページに及び,後学者にとって貴重な資料だ。
ところで,短歌篇に続く諸作は,牧水の作家活動の多彩さを示しているが,中でも,「童謡32篇と詩2篇」は、牧水の小さきものたちへの眼差しや慈しみの心をよく表している。また,「随筆11篇、紀行文8篇」は,いずれも鳥に因んだ部分の抜粋となっており,鳥に因んで歌を詠んだ時の情景や雰囲気を理解することに役立つ。彼の観察力,表現力の豊かさの所以(ゆえん)もよくわかる。
この本は,装丁も素晴らしい。冒頭の歌を想起させる,爽やかなライトブルーの表紙に,牧水の揮毫から採った,丸っこい3文字「牧水 鳥」が配されている。文庫本とはいえ,総ぺージ数が400ページ近く,重さ約300gもあって,手のひらにずしり。後学者必携の一書だ。
この本が,沼津市制発足百周年記念の産物として,公益社団法人沼津牧水会より発刊されたことについては前述したが,牧水の沼津市移住後すでに百年を超えているこ
とをも踏まえて,同会の理事長(林茂樹氏)が企画し,構想から編集・校正・出版に至るまでを一貫して手がけた労作である。牧水と親交のあった乗運寺(菩提寺)の当時の住職が祖父にあたる同氏は,同会の理事長として,牧水の顕彰事業に尽力,沼津市若山牧水記念館の運営にも携わり,牧水の活動の啓発に努めてきた。牧水の理解者として第一人者である畏友の努力によって,海の幸,山の幸に恵まれた沼津市に新しい名産品が生まれ,地域おこしの新材料となったことは,牧水ファンの一人としてとても嬉しいことである。
は,若山牧水の作品として広く知られる。牧水は,生涯で,8000首を超える短歌を残しているが,そのテーマは多彩で,酒,旅,鳥,魚,草木や花,空,海,山などの自然,家族,友人等々,さまざまである。中でも,「私は初めから鳥でなかったことを悲しみます。」と述べている(文学仲間(女性)への書簡)ほどに心を寄せていた鳥については,全詠歌の1割ほどにあたる849首を詠んでいる。
このたび,沼津市制発足百周年を記念して,公益社団法人沼津牧水会から,文庫本『牧水 鳥』が発刊され,これらを全部が収載されているので,紹介したい。
この本には,牧水の作品のうち,鳥に因んだものが網羅されている。 8000首以上の短歌の中からは,「鳥に因んだ短歌」849首(全体の約1割)がすべて収録され,短歌篇としてメインに据えられており,次いで,童謡32篇,詩2篇,随筆11篇,紀行文8篇が収載されている。
この本の前半を占める短歌篇についてみると,第一の特徴は,849首の短歌が,鳥の名称の五十音順に並べられており,その名称ごとに,カラー写真が添えられ,かつ,その鳥についての解説が略記されていることだ。 名称には,「あおさぎ」,「あおじ」に始まって,牧水が好んで詠んだ「うぐいす」,「ほととぎす」など具体的な固有の名称,「うみどり(海鳥)」,「しらとり(白鳥)」,「みずとり(水鳥)」といった総称的なもの,「ことり(小鳥)」,「とり(鳥)」という包括的なもののほか,「かいちょう(怪鳥)」,「くるいどり(狂ひ鳥)」といった仮想的なものがある。
鳥についての知識がなくても,気軽に短歌の雰囲気を鑑賞できる。一つ一つを味わえば,牧水が幼少期より,いかに自然に触れ,鳥たちと親しんできたかがうかがわれる。
鳥の化身であるかのような牧水のことを,歌人佐々木幸綱は,その著作「歌は翼」の中で,「最晩年の彼は、ほとんど鳥類に近くなっていたのではなかったか」と述べ,また別の箇所で,「牧水は鳥だったのだ。旅をする渡り鳥だったのだ、と一人合点し・・」と記しているほどである。
幾山河越えさり行かば寂しさの終てなむ国ぞ今日も旅行く (「海の声」「別離」)
この歌には,鳥に因んだ言葉は一語もなく,文庫本『牧水 鳥』に収載されてもいないが,渡り鳥と化した牧水の心が生んだ作品ともいえるのではないか。同様なことは,次のような作品にも感じられる。
山越えて空わたりゆく遠鳴の 風ある日なり山ざくら花 (「海の声」「別離」)
海見ても雲あふぎてもあはれわがおもひはかへる 同じ樹蔭に (同上)
次に,849首の短歌については,その出自がわかるようにとの配慮から,これらの短歌が詠まれ,公表された時期の順を追って定めた番号1~849(いわば歌番号)が各歌の後に付され,編末には,その歌番号に沿って公表文献が「註記」されている。その量は,15ページに及び,後学者にとって貴重な資料だ。
ところで,短歌篇に続く諸作は,牧水の作家活動の多彩さを示しているが,中でも,「童謡32篇と詩2篇」は、牧水の小さきものたちへの眼差しや慈しみの心をよく表している。また,「随筆11篇、紀行文8篇」は,いずれも鳥に因んだ部分の抜粋となっており,鳥に因んで歌を詠んだ時の情景や雰囲気を理解することに役立つ。彼の観察力,表現力の豊かさの所以(ゆえん)もよくわかる。
この本は,装丁も素晴らしい。冒頭の歌を想起させる,爽やかなライトブルーの表紙に,牧水の揮毫から採った,丸っこい3文字「牧水 鳥」が配されている。文庫本とはいえ,総ぺージ数が400ページ近く,重さ約300gもあって,手のひらにずしり。後学者必携の一書だ。
この本が,沼津市制発足百周年記念の産物として,公益社団法人沼津牧水会より発刊されたことについては前述したが,牧水の沼津市移住後すでに百年を超えているこ
とをも踏まえて,同会の理事長(林茂樹氏)が企画し,構想から編集・校正・出版に至るまでを一貫して手がけた労作である。牧水と親交のあった乗運寺(菩提寺)の当時の住職が祖父にあたる同氏は,同会の理事長として,牧水の顕彰事業に尽力,沼津市若山牧水記念館の運営にも携わり,牧水の活動の啓発に努めてきた。牧水の理解者として第一人者である畏友の努力によって,海の幸,山の幸に恵まれた沼津市に新しい名産品が生まれ,地域おこしの新材料となったことは,牧水ファンの一人としてとても嬉しいことである。