コンテンツへスキップ

本物語

一覧へ戻る

第78号 2024.3.31

「日本語」って不思議な言葉ですね!(その21)

松井 洋治

 今回は,日本への留学生から受けた「日本語に関する疑問」について,触れてみたい。専門学校や短大,大学で,通算24年間(56歳から80歳まで)に亘り非常勤講師を務めさせて戴いたお蔭で,かなりの数の留学生と接する機会を得た。国別では,アメリカ,フランス,中国,韓国,モンゴルなどである。但し,私の担当させて戴いた科目は,「ホスピタリティ産業論」,「観光学概論」,「ホテル旅館マネジメント論」,「ホテル会計」等だが,いずれも「日本語」だけでの授業。「観光学概論」の授業で,ボード(我々の学生時代は「黒板」しかなかったが,最近は「ホワイトボード(白板?)」にフェルトペンで書く)に「国内旅行と海外旅行」と書いたが,ふと気付いて受講中の中国人留学生(女性)に「〇〇さん,海外旅行って言葉,分かりますか?」と尋ねると「はい,分かりますが,中国には無い言葉です」との答え。日本の学生たちはキョトンとしている。「有難う。やはり思った通りでした」と言いながら「外国旅行(海外旅行)」と書き直すと,その留学生は大きく肯いてくれたが,ある日本人学生が「旅行会社のパンフレットにだって『海外旅行』と書いてありますよ」と言った。そこで私は敢えて即答を避け,先ほどの中国人学生に「説明」を頼んだ。彼女は,私の期待通りに「日本は,島国だから,外国は全部『海外』ですね。中国は,陸続きで沢山の外国があります」と答えてくれたのである。しかし,考えてみれば,日本では「外国旅行」という言葉は,確かに殆ど使われないし,耳にしない。島国だから生まれた「海外」に違いない。
 次に,韓国人の男子学生から受けた質問に即答できなかった例をご紹介したい。授業を終えて直ぐ,最前列にいた彼が「先生,韓国のこと好きですか?」と訊いて来た。迷わず直ぐに「好きですよ」と答えると,「今,私は『韓国好きですか?』ではなく,『韓国のこと好きですか?』と言いました。日本の人は『私好きですか?』と言わずに,どうして「私のこと好きですか?」と「こと」を付けて訊くんですか?」と,真剣な顔での質問である。私は,即答できず,たじろいでしまった。「ごめんなさい。君の言う通り,日本人は『私好き?』とも言うけれど,殆どの人が確かに,『私のこと好き?』と言っているよね。今すぐに,君が納得してくれるような,きちんとした答えが浮かばないから,来週まで待って欲しい」と頼み,彼も素直にOKしてくれた。1週間で,「なるほど,分かりました」と言って貰える回答が出来るかどうか気になったが,翌日,自宅近くの図書館に行き,藁にもすがる思いで手にした数冊の「日本語」に関する本の中で,「日本語の教室」(大野 晋。岩波新書)という本に「He gave me a punch」という英文を例に,「英語なら「彼が私を打(ぶ)った」だけで、「私のことを」などと余計な「コト」は付けないのに、日本語では何故?」という説明に出会い,「窮すれば通ず」とばかりに,嬉しくなって,直ぐに借り出した。著者・大野 晋氏は東大で「国語学」を専攻された「言語学者」で,「のコト」の説明に新書版で8ページに及ぶ記述があり,結果的にはその8ページを全てコピーし,翌週の授業の前に,韓国の留学生に「日本語なのに,私にも,上手く説明が出来ないので,このコピーをお渡しするから,よく読んでください。ごめんね」と言って,一応,彼から「有難うございました」と言って貰うことは出来たが,恥ずかしながら,ここでその8ページの要約を書くことは,今でも出来ない。というのが,勿論私の読解力,言語に関する知識不足が原因ではあるが,コンピューターを使った大野氏の実例探し,その結果に基づいた推測など,余りにも「学問的分析」が多く,また会話ではなく,「私儀,私事」など,書状や文書で用いる言葉が「私のコト」の始まりという説は,正しいのであろうが,言語学者ではない私にしてみれば,「そうなのかもしれないが,「書き言葉との区別」をきちんとつけられる解釈,並びに,もっと分かり易い説明」が欲しかった。あの8ページに及ぶコピーを受け取り「有難うございました」と言ってくれた留学生は,果たしてどこまで理解出来たのか,その後,確かめることはしないままだった。興味のある方は,是非ご自分で,上記の本をご一読願いたい。
 それにしても,普段から,何気なく使っている母国語の不思議さ,複雑さを,外国からの留学生に,改めて教えられた次第であり,長年,色々な国からの留学生を含め,若い学生さんたちと接する機会を得られたことに,今さらのように感謝している。
 ここまで書いて,気づいたことだが,日本語の「挨拶」についても,アメリカからの男子留学生二人と,かなり長時間,話し合った(楽しく議論し合った)経験もあり,今,思い出しても,笑顔になれる。次回は,この「日本語の挨拶」について,書かせて戴くつもりである。
一覧へ戻る