本物語
第78号 2024.3.31
~ある講演から~「脳の発達と老化」
小西 忠人
介護費2050年に75%増
昨年11月7日付の当地の新聞1面にこんな大見出しが躍っていた。寝ぼけ眼をこすりこすり記事を追うと,内閣府は,6日の経済財政諮問会議で50年の人口1人当たり平均介護費が19年比で75%増の23万5千円に達するとの試算を示していた。高齢化に伴って要介護者が増加することが要因で,平均医療費も22%増の40万1千円になるという。この数字は,多額の介護費がかかる80代以上の人口が増えると見込まれるためで,病気の予防促進や,医療費や介護のデジタル化による費用抑制が必要なのだと。これが長寿大国の待ったなしの“現実”とはいえ,わが身も「後期高齢者」に“位置”付けられているだけに,この記事で眠気も吹っ飛び,ドキリと胸に音がした。
これも昨年11月の話で,厚生労働省が2018年から最期の日々をどう過ごしたいかを,本人と家族,関係者で事前に考えを共有する「アドバンス・ケア・プランニング」(ACP)を設定し,自治体等で普及啓発を図るため毎年11月30日(いい看取り・看取られ)を「人生会議の日」にしているという。知らなかった。とかく寄る年波で心細く思う時に支えてくれる場があるのは有り難いし,安心・安全に話ができる窓口を増やされるのは結構なこと。ではあるがヤレヤレである。この世に生を受けた限りは誰しも人生のゴールが訪れる。かの秦の始皇帝,ありとあらゆる権力と富を手にしてなお,「不老不死」の薬を探させ,開発させたという伝承が浮かぶが,彼だけが永遠であろうはずもなかったのだ。「永遠だと言えるのは宇宙しかない」と語るのは『宇宙授業』の著者,元・宇宙航空研究開発機構(JAXA)職員の中川人司さん。「2003年、NASAの宇宙マイクロ波観測衛星WMAPの観測によって宇宙の物質量が推定され、“宇宙は永遠に広がっていく”ことが解明されました」とはるか彼方での営みを紹介してくれる。
であれば,人それぞれに人生観や死生観は異なるのは当然なことで,そのためにも自分らしく豊かに生きられるよう具体的に過ごすには―となると,わが身自身,愚忙にかまけてきたツケが今になって回ってくるやらで,情けない。そんな中,これも11月のこと。三九出版の「すばらしき高齢時代 我は不良老兵を宣言する」(A5版260ページ)新刊書にふれた。表紙には達者なご同輩たちのイラストが描かれ,「人生、楽しく行き(生き)ましょう」と悠々発信され,「『人生百歳時代』と言われる時代だからこそ、体も心もまだまだ動けるうちはちょいワル,はみ出す気概で不良になってみませんか」と勧めたのが発刊の狙いなそう。それ故に全国から募って”出兵”(執筆者)された「不良老兵」48兵。その構え,その手法は一家言を放ち,「不良老兵」どころか「不良」にもなれぬわが身に喝! とくる。これまた目が覚めた。それにしても元気な源は那辺にあるか? “頭”をひねると20年前。岩手県立中央病院医院長樋口紘さん(脳神経外科医、全国自治体病院協議会常務理事)に「脳の発達と老化・医療法改正と経済」と題して講演を依頼,登壇してもらったことが浮かび,樋口さんは故人となられたが,あの前段の話が「48兵」に共通している“脳のフル回転”,それだった。
「私は手術で毎回いろいろな脳を診ていますが、脳はピンク色で色つやが良く、手術中でも拍動しているんです。それは非常に神秘的で、しかも恐れ多いと言いますか、硬さは硬めの豆腐のような感じで、豆腐を缶に入れたまま落とすと、中の豆腐が崩れますね。そのくらいもろい脳です。男性の脳の重さは1,400グラム、女性は1,300グラムですが、重さではありません。脳のシワですね。20 歳を過ぎると1日に10万個ずつ減っていくと言われています。では、脳が小さくなって、それが大丈夫なのかとなりますと、実は人間の脳細胞は成長しながら老化すると言われています。脳細胞は減るかもしれないが、ネットワークの連線の数は何歳になっても増える。ここがポイントです。1日に10万個ずつ減るが、しかし、連線が80、90歳まで増える。と言うことは、脳は老化しながら成長すると言われるゆえんです。人類に残された最大の傑作である脳だけは高齢になっても成長するんです」。こう語った後で,樋口さんはその「連線」が悪く発達した例を挙げた。インドのカルカッタ郊外で狼の巣穴で育てられた二人の少女のことで,姿かたちは人間なのに、寝方は動物の寝方で、生肉しか食べず,ようやく二本足で立つまでに数年かかり,言葉も二言三言程度のまま16,7歳で亡くなった話だった。しかし,その少女が,妹が死んだ時に数日間ものも食べず,声も出さず,壁に向かったまま涙を流していたという。この事実に樋口さんは「つまり少女は人間になれなかったかもしれないが、人間の心であるDNA、人の死を悼み、悲しみ、人間としての思いやりというものが,この少女は失ってはいなかった」と結んだ。
その少女にまつわる話は切なく響くが,高齢であっても「連線」が増えるという脳に樋口さんは,「普段から“ふさふさ脳”にしておく心掛けが大切です」と笑みを添えた。
昨年11月7日付の当地の新聞1面にこんな大見出しが躍っていた。寝ぼけ眼をこすりこすり記事を追うと,内閣府は,6日の経済財政諮問会議で50年の人口1人当たり平均介護費が19年比で75%増の23万5千円に達するとの試算を示していた。高齢化に伴って要介護者が増加することが要因で,平均医療費も22%増の40万1千円になるという。この数字は,多額の介護費がかかる80代以上の人口が増えると見込まれるためで,病気の予防促進や,医療費や介護のデジタル化による費用抑制が必要なのだと。これが長寿大国の待ったなしの“現実”とはいえ,わが身も「後期高齢者」に“位置”付けられているだけに,この記事で眠気も吹っ飛び,ドキリと胸に音がした。
これも昨年11月の話で,厚生労働省が2018年から最期の日々をどう過ごしたいかを,本人と家族,関係者で事前に考えを共有する「アドバンス・ケア・プランニング」(ACP)を設定し,自治体等で普及啓発を図るため毎年11月30日(いい看取り・看取られ)を「人生会議の日」にしているという。知らなかった。とかく寄る年波で心細く思う時に支えてくれる場があるのは有り難いし,安心・安全に話ができる窓口を増やされるのは結構なこと。ではあるがヤレヤレである。この世に生を受けた限りは誰しも人生のゴールが訪れる。かの秦の始皇帝,ありとあらゆる権力と富を手にしてなお,「不老不死」の薬を探させ,開発させたという伝承が浮かぶが,彼だけが永遠であろうはずもなかったのだ。「永遠だと言えるのは宇宙しかない」と語るのは『宇宙授業』の著者,元・宇宙航空研究開発機構(JAXA)職員の中川人司さん。「2003年、NASAの宇宙マイクロ波観測衛星WMAPの観測によって宇宙の物質量が推定され、“宇宙は永遠に広がっていく”ことが解明されました」とはるか彼方での営みを紹介してくれる。
であれば,人それぞれに人生観や死生観は異なるのは当然なことで,そのためにも自分らしく豊かに生きられるよう具体的に過ごすには―となると,わが身自身,愚忙にかまけてきたツケが今になって回ってくるやらで,情けない。そんな中,これも11月のこと。三九出版の「すばらしき高齢時代 我は不良老兵を宣言する」(A5版260ページ)新刊書にふれた。表紙には達者なご同輩たちのイラストが描かれ,「人生、楽しく行き(生き)ましょう」と悠々発信され,「『人生百歳時代』と言われる時代だからこそ、体も心もまだまだ動けるうちはちょいワル,はみ出す気概で不良になってみませんか」と勧めたのが発刊の狙いなそう。それ故に全国から募って”出兵”(執筆者)された「不良老兵」48兵。その構え,その手法は一家言を放ち,「不良老兵」どころか「不良」にもなれぬわが身に喝! とくる。これまた目が覚めた。それにしても元気な源は那辺にあるか? “頭”をひねると20年前。岩手県立中央病院医院長樋口紘さん(脳神経外科医、全国自治体病院協議会常務理事)に「脳の発達と老化・医療法改正と経済」と題して講演を依頼,登壇してもらったことが浮かび,樋口さんは故人となられたが,あの前段の話が「48兵」に共通している“脳のフル回転”,それだった。
「私は手術で毎回いろいろな脳を診ていますが、脳はピンク色で色つやが良く、手術中でも拍動しているんです。それは非常に神秘的で、しかも恐れ多いと言いますか、硬さは硬めの豆腐のような感じで、豆腐を缶に入れたまま落とすと、中の豆腐が崩れますね。そのくらいもろい脳です。男性の脳の重さは1,400グラム、女性は1,300グラムですが、重さではありません。脳のシワですね。20 歳を過ぎると1日に10万個ずつ減っていくと言われています。では、脳が小さくなって、それが大丈夫なのかとなりますと、実は人間の脳細胞は成長しながら老化すると言われています。脳細胞は減るかもしれないが、ネットワークの連線の数は何歳になっても増える。ここがポイントです。1日に10万個ずつ減るが、しかし、連線が80、90歳まで増える。と言うことは、脳は老化しながら成長すると言われるゆえんです。人類に残された最大の傑作である脳だけは高齢になっても成長するんです」。こう語った後で,樋口さんはその「連線」が悪く発達した例を挙げた。インドのカルカッタ郊外で狼の巣穴で育てられた二人の少女のことで,姿かたちは人間なのに、寝方は動物の寝方で、生肉しか食べず,ようやく二本足で立つまでに数年かかり,言葉も二言三言程度のまま16,7歳で亡くなった話だった。しかし,その少女が,妹が死んだ時に数日間ものも食べず,声も出さず,壁に向かったまま涙を流していたという。この事実に樋口さんは「つまり少女は人間になれなかったかもしれないが、人間の心であるDNA、人の死を悼み、悲しみ、人間としての思いやりというものが,この少女は失ってはいなかった」と結んだ。
その少女にまつわる話は切なく響くが,高齢であっても「連線」が増えるという脳に樋口さんは,「普段から“ふさふさ脳”にしておく心掛けが大切です」と笑みを添えた。