本物語
第79号 2024.7.25
量子論でみる社会と経済 ⑩ ボーアの相補性と量子論(その2)
吉成 正夫
「相補性」を投資の世界で考えてみましょう。
投資の理論には「ポートフォリオ運用」があります。分解しますと「ポート」は「運ぶ」。「フォリオ」は「ファイル」です。投資顧問会社の社員がお客さんから「何に投資したらよいの?」と聞かれますと,投資銘柄を一覧表にして「当社のベスト銘柄はこれです」とお客さんを訪問してお見せします。「なぜなら……」とその理由を解説します。そこから投資理論が展開されていきます。投資家の投資経験や投資目的を加味し,「投資のリスクと収益見込みのバランス」をとるなど総合的な視点から理論構成されていますので代表的な投資理論です。「長期,最適,分散」はポートフォリオ運用の簡潔で明解なキャッチフレーズであって,なるほどと思わせます。しかし別な見方ができます。
まず「長期」です。未来は何が起きるか分からず「長期」はある意味で危険極まりないものです。現に,911(2001年9月11日)の米国同時多発テロ事件,311(2011年3月11日)の東日本大震災,ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月24日),ハマスのレイム野外音楽祭虐殺事件,等々,想定外の大事件が発生すると,投資の世界は,こうした事件を巡ってそれまでとは全く異なる動きを示します。予め予想できなかっただけに与える影響が大きいのです。先行きを予測して仮にそれを実現したらどうでしょうか。その予測はすでに市況に織り込まれているのでほとんどない運用成果に貢献してくれません。
次に「最適」です。堅固な理論の枠組みを構築して,投資先の会社の適切な価値を算出しても,その価値で取引が成立する保証はありません。市場で取引される価格は,「買い手の事情」と「売り手の事情」がうまく折り合ったときに成立しますので,適正と評価された価格とは別物です。最近,生成AI向けの半導体で急成長した米国のエヌビデアの株価が3.3兆ドルになり,マイクロソフト,アップルの株価を抜いて米国の株式時価額で一時トップになりました。6月末の時価額3.02兆ドルを円換算しますと486兆円です。エヌビデア1銘柄で日本全体の約5割を占めます。投資の世界は,理論的に最適の価格を算出しても,現実の取引価格とは別物なのです。現在起きている事象そのものを様々のデータから証券市場の相関性を分析し,現実そのものを集約して時価という単一価格に集約するのが量子論の考え方です。一方,過去の事象や指標を分析して価格を算出するのが量子論以前の伝統的物理学の思考方法です。
最後に「分散」です。 キャッチフレーズの中では最も的を射ているかもしれません。かつて分散投資と言えば「現金,株式,不動産」と単純でした。現在の金融資産は多様化して様々の金融派生商品がありますし,グローバル化して世界が狭くなりました。
自分が人生のどの段階にあるのか,自分の性格などを勘案してリスク資産にどの程度配分するかなど,単純に考えた方が正解に近いでしょう。
「ポートフォリオ理論」は明解に方向を指し示すようですが,人間社会はもっと複雑で矛盾した存在なので,そう簡単にはいかないことがお判りいただけたと思います。つまり「投資を論理的に構築する考え方」と「現在の投資の実態を直視する考え方」は相補性の関係にあると考えます。 相場の格言では 「人の行く裏に道あり花の山」「理路整然と高値を掴み」と表現しています。誰も行かない道を辿って大きな成果を得られれば言うことはないのですが, 花の山もなく誰からも評価されずに終わる方も多勢います。あなたはどちらの道を選ぶでしょうか。
花の山を見つけるには「人間とは何か」を研究しなくてはなりません。欧米の大学では教養課程でいわゆる「リベラルアーツ」を重視します。これは古代ギリシャの教育方法を継承したものです。人文科学,自然科学,社会科学の広範な知識を身につけるとともに自由な思考を育てることを目的とします。特に人間探究の知的基盤を習得することに狙いがあります。2022年に文系の立場から量子論の本を上梓しましたが,遊びであっても学びであっても,経験したことで無駄になったものはなかったと実感しています。
量子は多くの特性を備えています。社会と量子の関係についてほとんど考察されてきませんでしたので,断片的なものに留まりますものの,いずれは体系化され「大きな物語」になっていくのではないかと夢見ています。
次号以下では,社会生活のなかで「相補性」とつながりのありそうなテーマを取り上げます。天使と悪魔,家庭,スポーツ,選挙,そして経済成長が地球の限界に達したと話題になっています。これらを相補的に考えて参ります。
投資の理論には「ポートフォリオ運用」があります。分解しますと「ポート」は「運ぶ」。「フォリオ」は「ファイル」です。投資顧問会社の社員がお客さんから「何に投資したらよいの?」と聞かれますと,投資銘柄を一覧表にして「当社のベスト銘柄はこれです」とお客さんを訪問してお見せします。「なぜなら……」とその理由を解説します。そこから投資理論が展開されていきます。投資家の投資経験や投資目的を加味し,「投資のリスクと収益見込みのバランス」をとるなど総合的な視点から理論構成されていますので代表的な投資理論です。「長期,最適,分散」はポートフォリオ運用の簡潔で明解なキャッチフレーズであって,なるほどと思わせます。しかし別な見方ができます。
まず「長期」です。未来は何が起きるか分からず「長期」はある意味で危険極まりないものです。現に,911(2001年9月11日)の米国同時多発テロ事件,311(2011年3月11日)の東日本大震災,ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月24日),ハマスのレイム野外音楽祭虐殺事件,等々,想定外の大事件が発生すると,投資の世界は,こうした事件を巡ってそれまでとは全く異なる動きを示します。予め予想できなかっただけに与える影響が大きいのです。先行きを予測して仮にそれを実現したらどうでしょうか。その予測はすでに市況に織り込まれているのでほとんどない運用成果に貢献してくれません。
次に「最適」です。堅固な理論の枠組みを構築して,投資先の会社の適切な価値を算出しても,その価値で取引が成立する保証はありません。市場で取引される価格は,「買い手の事情」と「売り手の事情」がうまく折り合ったときに成立しますので,適正と評価された価格とは別物です。最近,生成AI向けの半導体で急成長した米国のエヌビデアの株価が3.3兆ドルになり,マイクロソフト,アップルの株価を抜いて米国の株式時価額で一時トップになりました。6月末の時価額3.02兆ドルを円換算しますと486兆円です。エヌビデア1銘柄で日本全体の約5割を占めます。投資の世界は,理論的に最適の価格を算出しても,現実の取引価格とは別物なのです。現在起きている事象そのものを様々のデータから証券市場の相関性を分析し,現実そのものを集約して時価という単一価格に集約するのが量子論の考え方です。一方,過去の事象や指標を分析して価格を算出するのが量子論以前の伝統的物理学の思考方法です。
最後に「分散」です。 キャッチフレーズの中では最も的を射ているかもしれません。かつて分散投資と言えば「現金,株式,不動産」と単純でした。現在の金融資産は多様化して様々の金融派生商品がありますし,グローバル化して世界が狭くなりました。
自分が人生のどの段階にあるのか,自分の性格などを勘案してリスク資産にどの程度配分するかなど,単純に考えた方が正解に近いでしょう。
「ポートフォリオ理論」は明解に方向を指し示すようですが,人間社会はもっと複雑で矛盾した存在なので,そう簡単にはいかないことがお判りいただけたと思います。つまり「投資を論理的に構築する考え方」と「現在の投資の実態を直視する考え方」は相補性の関係にあると考えます。 相場の格言では 「人の行く裏に道あり花の山」「理路整然と高値を掴み」と表現しています。誰も行かない道を辿って大きな成果を得られれば言うことはないのですが, 花の山もなく誰からも評価されずに終わる方も多勢います。あなたはどちらの道を選ぶでしょうか。
花の山を見つけるには「人間とは何か」を研究しなくてはなりません。欧米の大学では教養課程でいわゆる「リベラルアーツ」を重視します。これは古代ギリシャの教育方法を継承したものです。人文科学,自然科学,社会科学の広範な知識を身につけるとともに自由な思考を育てることを目的とします。特に人間探究の知的基盤を習得することに狙いがあります。2022年に文系の立場から量子論の本を上梓しましたが,遊びであっても学びであっても,経験したことで無駄になったものはなかったと実感しています。
量子は多くの特性を備えています。社会と量子の関係についてほとんど考察されてきませんでしたので,断片的なものに留まりますものの,いずれは体系化され「大きな物語」になっていくのではないかと夢見ています。
次号以下では,社会生活のなかで「相補性」とつながりのありそうなテーマを取り上げます。天使と悪魔,家庭,スポーツ,選挙,そして経済成長が地球の限界に達したと話題になっています。これらを相補的に考えて参ります。