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本物語

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第80号 2024.11.25

傘寿の思い出 四国遍路に挑戦(その5)

藤澤 康裕

5. 遍路~結願~満願
 遍路は毎日続いた。そんな中で同じ宿に連泊をしたことがあった。この連泊は大正解であり記憶に残る出会いでもあった。愛媛県内子の宿で次の宿を検討した時,45番の岩屋寺は通常のルートから東方に13kmほど行って戻ってくる必要があり宿泊を決めかねていたが,宿のご主人が熟知されており,連泊を提案してくれてそれに乗った。宿が満杯で全て断られてしまい途方に暮れたが再度お願いして久万高原町の宿に拝み倒して素泊まりで宿泊することに決まった。宿は奥様を病で亡くしたご主人が広い家を一人で経営されていた。私が泊まる日は通院のため断っていたものであったが私の宿泊が決まってからは心からの接待をしてくれた。その日は内子町から鴇田峠を通って35km位のコースだった。歩行歩数は58,378歩の長い道のりであった。その日,朝の9時頃に何方からの電話があった。11時頃の休憩時間に気が付いて電話してみたら宿のご主人が“順調に行ってますか?”と優しい声で話してくれた。遍路中に遍路者を気遣って電話をくれたのは初めてのことで感動した。途中で買った夕食を宿の食堂で食べていたらご主人が里芋の煮つけを料理してくれて持って来て色々お話をしてくれた。このような沢山の思い出と感動を経験しながら遍路は続いた。最初の内は足や筋肉が痛くて苦しかった遍路も2週間くらい過ぎた頃から次第に慣れてきて,現役時代の会社生活の日々と同じ気持ちになってきた。朝,家を出て出勤し仕事に集中して帰宅するというサラリーマン時代と同じ時間感覚に変わっていた。仕事に集中したように遍路中は退屈に感じることや途中でギブアップするような気持は全く起こらなくなった。同時にこの遍路で何かを掴むということに対して未だ何の気付きや発見もないことに少しずつ不安な気持ちも芽生えていた。
 愈々結願が叶う日になった。何時ものように淡々とした心境で7時に旅館を出発した。明日からはこのような行脚ともお別れと思うと寂しい思いが心を占める。感情の高ぶりは特に無かったが88番大窪寺の階段を目にして小躍りをした。この日は祝日ということもあり観光客が沢山押し寄せて来ていて心の中の喜びにじっくりと浸ることもなかった。名物の讃岐うどんを食べるのも目的の一つであったが境内も食堂も観光客で溢れていて結願がかなったお祝いは途中で買ったサンドイッチを1番霊山寺に戻る道中で食べることになってしまった。この後途中の白鳥温泉で遍路の疲れを癒してゆっくり浸った。霊山寺に参拝する前に遍路ハウスに行って無事に戻ることができたことを高原先生に報告してゆっくり土産話をさせて頂く積りであったが時間もあるし霊山寺に参拝して最終の便で高野山に行きなさいとの厳しい指導を受け霊山寺でお礼の参拝をした。ここの売店で9月の出発の時に記した私の情報の欄にお礼参りの日を赤い字で記す欄がありここに帰着の日付2022年11月4日と記入した時は感無量であった。このノートは霊山寺の土産店に置いてあり遍路の決意を持った方が記入して出発するが区切り打ちのため出発日と帰着日が数か月離れたものや,途中で断念された方はお礼参りの日が空白のままになっているものが多くあり,遍路の厳しさを知った。私はここで金剛杖を購入したので売っている新品と自分が持っているものを比べてみたら15cmくらい短くなっていた。遍路ハウスに戻ると高原先生は最終のフェリーに間に合うからということで休む間もなく最後の満願の旅に出発した。和歌山港の近くに宿を取り翌朝一番の電車で高野山に行った。高野山には8時頃に到着したが多くの観光客で混雑していた。金剛峯寺は荘厳な建物で威厳があった。最後の参拝は88寺を全て参拝で来た喜びを噛みしめながら静かにまるで弘法大師に囁くように読経し報告した。
6.総決算の結果は?
私の遍路は「人生の総決算の積りで挑戦してみよう」という強い意気込みで始めた訳であるが,遍路期間中歩いて考える時間は有り余る程あったが,何かを掴めそうな気にはなってもするっと消えてしまう。この連続であった。結局のところ大袈裟に構えた総決算は私が描いた幻であったのであろうか。でも二年たった今何か分からないものを見つけたような気もするがそれが何なのか分からない。ではこれからの長くもない人生をどう生きるか,絶大な夢と期待を背負って一大決心をした四国遍路も形のあるものは何一つ得ることがなくこの先の人生をどう生きたら良いのであろうか?こう思った時に昔聞いた言葉を誰かが囁いてくれた“私の人生昨日まではリハーサル、今日からが本番だ”……。そうかこれだっ!!。この心でこれからの人生に挑んで行こう。四国遍路で見つけることができなかった何かを一つでも良い,小さくても良いからこれを探しにこれからの人生の本番の遍路に挑もうと固く決心した。(完・感謝)
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