コンテンツへスキップ

本物語

一覧へ戻る

第80号 2024.11.25

日本語」って不思議な言葉ですね!(その23)

松井 洋治

 9月下旬で終わってしまったが,NHK朝の連続テレビ小説「虎と翼」は,珍しく「司法」の世界の話で,欠かさずに見ていたが,主人公の寅子が,疑問に思うことに対し「はて?」と言うのが口癖であった。案外,今年の「流行語大賞」の候補になるのかもしれないが,それはともかく,この「はて?」という日本語について考えてみた。まず浮かんだのは,「?」の記号で,私は子供の時から,「?」を「はてなマーク」(ついでに「!」は「びっくりマーク」とか「ギョッのマーク」)と呼んで来た。その「はてな」という日本語の「語源」を書き留めた記憶があり,早速,これまで十数年がかりで,折に触れて集めて来た「語源ノート」をめくったところ,「わぐりたかし」さんという放送作家による説明が出て来た。それによると,江戸時代に吉原の遊郭「丁子屋」で流行(はや)った「花魁(おいらん)言葉」らしく,感動詞「はて」に,間投助詞「な」を添えて,「怪しんだり、考え惑う時に発する」と書き留めてある。だとすれば,「はて」だけで使われていた言葉に,後から「な」が付いたと考えるべきなのかもしれない。そういえば「はてさて」(驚いたり,迷ったりした時に発する言葉<大辞林>)もある。久し振りに「語源ノート」を広げたついでに,書き留めてある中から幾つかの言葉の「語源」をご紹介させて戴きたい。記録の最後に「この外にも諸説あり」という但し書きがかなりあるが,誌面の都合もあり,書き留めた範囲だけでお許し願いたい。先ずは,上記の「ギョッ」である。昨今の異常気象(線状降水帯や熱中症警戒アラートなど)や,先般の与野党の党首選びの討論会での発言にも「ギョッ」とすることが多いが,どうやらこれは「古代中国の木製楽器〝敔(ぎょ)〟から来た言葉らしい。毎回この原稿作成はWORDのお世話になっているが,「ぎょ」と入力して変換しても見当たらないため,「ぎょ」の「単漢字」をクリックしてみると,意外に早く「敔」の字が出て来た。どんな形でどんな音がするのか迄は書き留めていないが,僧侶が講話をする際,聴衆の眠気覚ましに,時々「敔」を叩いたようだ。
 余談ながら,私(現在82歳)前後の年齢の方は,ご存じかもしれないが,昭和24年に放送されたNHKの「陽気な喫茶店」というラジオ番組の中で,内海突破(うつみとっぱ)という芸人(漫才師)が,「ぎょっ」とか「ぎょぎょぎょ」を連発して一気に広まった「ギャグ」である。言葉や日本語から外れてしまうし,真偽のほどは不明だが,「?」は「人が首を傾げた姿」を,「!」は「人がびっくりして、跳び上がった姿」を表わして出来た記号だと,亡き父に教えられたことを思い出している。「語源ノート」から,もうひとつ「へなちょこ」を取り上げたい。角川・国語辞典によれば,《素焼きの安っぽい「さかずき」の呼び名から,未熟な者をあざけっていう言葉で,「へな猪口」と書く》となっている。猪口=(ちょく、ちょこ)は「さかずき」のことで,上記国語辞典を引くまでは「変な猪口」から出来た言葉だろうと思っていた。しかし,「へなちょこ」のすぐ隣に「へな土(つち)」という言葉が出ており,「粘土」のことだと書いてある。そこで初めて,「へな」は「変な」ではなく,国語辞典にある「素焼きの安っぽいさかずき」が「粘土」で出来た釉(うわぐすり)も何も掛けていない「素焼き」であることに気付かされた。素焼きだから,酒を注ぐと,場合によっては音を立てるほどではないまでも少しずつ,さかずきが酒を吸い込んだのかもしれない。改めて,辞書の編纂者に脱帽した次第である。「語源探し」は,結構楽しく,キリがないが,今回の最後に,これだけは「へーっ!」と驚いて戴けそうな言葉をご紹介したい。それは「代わりばんこ」である。この「ばんこ」は,何の疑いもなく「順番」の意味で「番こ」というだけだと思っていたが,先日NHKラジオで「バンコ」とは,インドの古語のサンスクリット語だと知ったばかりである。昔は火を起こす際に,「ふいご」という足踏み式の送風機を使っていたが,その踏み板(「たたら」という)を踏む人のことをインドで「バンコ」と呼んだらしい。その作業が大変疲れるため,次々に交代しなければならなかったという。山陰地方には昔からインドの人が来て「鋳物」の手法を教えたらしく,日本語では「代わるがわる」ともいうが、「ばんこ」は元々「外来語」だったようだ。落語好きな方はご存じだろうが,「根問い」(ねどい)という言葉がある。文字通り「ルーツを問いただす」つまり「語源探し」のことで,「浮世根問」という落語では,何でも「知ったかぶり」をする隠居に,八つぁんが「鰻という魚は、なんでウナギというんですかね?」と尋ねた時の隠居の答が面白い。「元はナガウオと呼ばれていたが、ある時、鵜(ウ)という鳥が、ナガウオを呑み込んだが、余りに長いので大変難儀をした。そのため、それからは“鵜難儀(ウナンギ)”、うなんぎ、うなぎ…となったんだ」と笑わせる。おあとが宜しいようで…。
一覧へ戻る