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本物語

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第82号 2025.8.31

地域の魅力を発信して20余年

白川 治子

 身の程知らずですが,小中学生の頃から憧れていた職業は新聞や放送局の記者でした。運よく地元仙台の東北放送に就職できたものの,心に残る仕事が出来ないまま結婚退職で東京へ。既婚女性にクリエイティブな職種が少なかった時,中高の教員免許を持っている事に気付き,東京の伝統ある私立校に勤めることができました。そこでの数年間は大学受験生を教えるなどやりがいがありましたが,出産を機に退職。
 当時は横浜市港北区(区名変更で今は都筑区)に住まいを移しました。「子どもの勉強を見て」と頼まれた一言がきっかけで,寺子屋ごとき塾を始めたのです。プレッシャーと生きがいと楽しさを感じた30年でしたが,60歳で塾を止めました。
 「これからはボランティア」と思っている時に目にしたのが「区民レポーター募集」のお知らせ。「つづき交流ステーション」というサイトで,都筑の魅力を発見し発信しよういう内容です。すでに自分のホームページ「HARUKOの部屋」を作っていたし,パソコン操作はそれなりに出来たので,すぐ一員になりました。
 区役所の区政推進課が「区民が作るサイト」を提案し,それを受けた数名が運営者でした。都筑の魅力を発信すれなら何を取材しても良かったので,私は企業・施設訪問を担当。70数か所を取材しましたが,批判的に見る考えは捨て,会社の内容と素晴らしさを知ってもらう事を念頭におきました。都筑区はニュータウン造成時に公害のない会社を誘致したので,名のある会社の本社や支社が進出し取材先は事欠きませんでした。「都筑区役所と協働事業」というお墨付きのおかげもあります。
 1回目のリコー中央研究所に続き,サカタのタネ,AOKI(紳士服大手),図研(キャドの開発制作),京セラ,崎陽軒,山崎製パン,東京ガス,IKEA,パナソニックなどの訪問は,長らく公の場で働いていなかった私には,驚きと興奮の出来事でした。サカタのタネの当時の売れ筋「アンデスメロン」は,南米のアンデスとは無関係で「安心です」が由来だとか,崎陽軒のシウマイ(作り方を教えてくれた中国人の発音)は一般的に使われているシューマイとは表記が違うこと,京セラではケータイ(まだスマホがなかった)の複雑な中も見せてもらい,研究員すらこんな小さな器械でたくさんのことが出来るか不思議だという本音も聞けました。
 都筑区には幼稚園から高校まで学べるドイツ学園があるためか,ドイツ系の会社はボッシュなど数社あります。ヒルティとテュフラインランドジャパンの2社しか訪問していませんが,テュフには本物のベルリンの壁が設置されています。
 会社以外に歴史博物館,消防署,水道局,交通局(下鉄グリーンライン建設現場)、資源循環局(ごみ処理),日本盲導犬協会,昭和医科大学横浜市北部病院など公的施設訪問は,一般人は入れない場所を見学できるワクワク感がありました。特に得難い経験は内視鏡手術を見学できたこと。大腸内視鏡の名医に「内視鏡の手術はどのようにするのか」と聞いたら,消毒した衣服を着たうえで手術見学と撮影も許してくれました。
 1回目の訪問から20年が過ぎた今,都筑区から撤退した会社もあります。主なところでは,資生堂リサーチセンター,オンワード樫山,バンダイナムコゲームス。オンワードは研究所以外にプール付きホテルやレストランや研修所もあり非常に豪華でしたが,諸事情を推察するしかありません。
 企業訪問と平行して「ひと訪問」もしています。純農村だった地が全国的にも有名な港北ニュータウンになった経過を知っている地元民,交渉する側だった住宅都市整備公団の双方の訪問は個人的にも興味津々でしたが,当時の関係者のほとんどが鬼籍に入った今,貴重な記録になるのではと自負しています。特にニュータウン生みの親のひとり川手昭二さん(当時は公団勤務で後に筑波大教授)は,6時間もインタビューに応じてくれました。川手さんは,別の仲間と「緑道マップ」を作った時にも15㎞の緑道を一緒に歩いてくださり,細かいエピソードが聞けました。
 取材して記事を書いてサイトにあげる作業には,取材先や区役所やメンバーのチェックも入り簡単ではありません。区役所が提案したサイトなので最初の数年間は補助金が出ましたが,それ以降はすべてボランティア。それでも続けているのは,人に会い珍しい話が聞ける事が楽しいからです。思えば,小学生の頃の「記者になりたい」気持ちが50年後に実現しています。とはいえ,厳しいキャップに鍛えられることがないので上達もしませんし,マスメディアと違って読者も少ないのですが検索のトップに記事が載ることもあり,最晩年の生きがいの1つになっていることは確かです。
 よろしければ「つづき交流ステーション」https://www.city-yokohama-tsuzuki.net/をごらんください。企業・施設訪問,ひと訪問,区民レポーターのコーナーで,HARUKOのハンドルネームで書いています。
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