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本物語

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第84号 2026.3.25

震災を乗り越えて 節目で,どうする

井上 剛

 3月11日が近づくと,正直なところ心がざわつく。今年のマスコミの報道は「15年目の節目」がキーワードのようだ。私の言う「震災」に節目はない。3.11が特別な一日とはどうしても思えない。しかし,「節目の日」に立ち止まり,これからどうしていきたいのか,今どうしているのかを考える時間は大切かもしれない。被災地で生きてきた私たちにとっては,自分と向き合う大切な時間であることは確かだ。
 私が中浜小の屋上で誓った「二度と同じような経験をさせたくない」との想いは,その後15年間の語り部としての活動につながった。被災地で起きたことを多くの人たちに伝え,子どもたちに伝えることで万一の災害に遭遇した時に,少しでも多くの人たちが適切な行動ができるように,伝えてきたつもりだ。この取組が被災地のために役立っていたのかどうか,まだ道半ばで結果が出ているとは言えない。地域住民の方たちの中で自ら語り出そうとする人は,私の当初の予想よりごく少数にとどまっている。防災の面では学校教育に対してある程度の成果が出始めた。しかし,私たちが良かれと思って行っている活動が,防災の専門家となってしまい,地元の人たちが本来伝えるべき機会を奪っているのではないかというジレンマに近い感覚も覚える。この課題に対しては,これからも方向性を見つめなおして,粘り強く取り組んでいくしか方法がないかもしれない。
 したがって,今回は3.11当時の自分の判断や行動を支えたものについて振り返り,次の一歩をどう進めるか,考えてみようと思う。皆さんにも,これからどうしていくかを考えるきっかけになれば幸いだ。
 「災害は,地球が起こすもの」――15年目にして,ようやくこの考えに至った。これまでは,中浜小での経験から「自然には敵わない」と感じていた。中浜小の屋上では,自然の脅威にさらされた。その時見上げた星空には,人間と自然の圧倒的な力の差を見せつけられた。そして,翌日の水平線から昇る朝日に自然のぬくもりも感じた。「自然には敵わない」という表現は,当時の私の理解に最も近かった。「災害は地球が起こすもの」と知ったことで,これまでの考え方が大きく広がった。これまで抱いていた多くの疑問が解決した。これでは人間は自然に敵うはずがないと納得した。高校時代に履修した「地学」の授業で,「プレートテクトニクス」について,驚きをもって学んだことが,私たちの命を救うことにつながった。3月9日に三陸沖で地震が発生した時に「北と南で海の崖が崩れたから,いよいよ真ん中の宮城県沖地震が起きるかもしれない。」と閃いたことは,教頭,教務らと打合せをしたきっかけになっていた。学校で学んだことは将来の危機で役立つことを実感した。子どもたちにしっかり伝えること,学ばせることは,将来の危機に際して地域全体の減災に役立てる重要な手立てだと思う。子どもたちに伝えるためには,子どもに毎日接している大人や教師に危機意識を伝えることが重要だ。特に教師に対しては,座学ではなく,これまで以上に実践的な研修の場を提供していくことが重要だと思う。これができていない。この場を積極的に提供していくことは,これから更に力を入れていきたいことだ。これはすでに始まっているが,多忙な学校現場に刺さっていくことは並大抵のことではない。
 もう一つ振り返っておきたいことがある。それは,中浜小校舎の事前の備えについてだ。これまで説明されていなかったことにも,視点を変えて触れておきたい。
中浜小の校舎は,約2m嵩上げされて建築されたことはすでに伝えていた。2mの嵩上げは,液状化の影響を受けやすい。これは,詳細を伝えていなかった。私たちは,現場から液状化の跡らしい箇所を認めている。しかし,あの大地震にも耐え,津波通過時の波の衝撃や浮力にも耐えた事実から思い当たることがある。私たちの命を託した校舎は,多数の杭がしっかりと打たれ,土台を堅牢にしていたことなどは,表面から見えない。私たちは,校舎が命を守ってくれたと感じた当時の感覚を,もう一度確認しておくことが大事だと思う。見えない所に手を抜かないこと。事前の備えの神髄は,ここにあるのだと思う。このことを今後に活かしていくことを大事にしたい。
 中浜小の円柱の柱は,瓦礫の混じった津波を様々な方向から受け流す優れた構造だと評価されている。実際に津波避難タワーには,円柱構造が多く採用されている。では,中浜小の設計段階で,ここまで津波対策を考慮できていたかどうか。曖昧さが残る。もっと現実的に考えると,学校生活上の安全対策として,小学生が柱に衝突した時のけがを軽減する形状として採用されていたのかもしれない。これが,津波にも有効だと分かった。結果オーライだ。伝えてきた教訓も別の視点から再度見直すことによって新たな気づきがある。3月11日は,新たな災害の発生への通過点。新たな脅威に対抗する出発点として,「心の備え」をしていく人々を増やしていきたい。
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