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本物語

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第85号 2026.7.25

七夕,男女の稀有な出会い 

木村 清生
山口県周南市

 七夕は天の川をはさんで,牽牛星(彦星,鷲座の主星アルタイル)と織女星(織姫,琴座の主星ベガ)が,年一度出会う日。ロマンチックですね。この歳で何がロマンチックか! まあまあ、そうおっしゃらず!
 彦星と織女星,実はこの二つの星の間隔はとてつもない距離,なんと15光年も離れているのです。ですから説話上では出会えても,現実には光の速度をもってしても,1年に1度出会うことは叶いません。
   「七夕や逢へざる距離の夫婦星」
 さて,お話をしようというのは,七夕の時季になると思い出すロマンチックな嘘のようなホントの話。天界の星の出会いではありません。この地球上の瑞穂の国の男女の稀有な出会いなのです。ロマンチックでしょう! そんな出会いがこの世知辛い世の中にあるものか?……ですって! それがあったのですよ。まあ私の話をお聞きください。
 もうあれから8年にもなりますが,12月半ばのある小春日のこと。福井ナンバーの白い大型車がわが家の前に止まりました。さーて,どなたやら?と見れば,70歳がらみの男性が下りて来て会釈しながら言いました。「この辺りに木村A子さんという方の家がありますか?」
 この時期,私は白寿の母の介護をする日々で疲れ気味でした。しかし,風のない冬日和に現れた,この珍客になにか救われたような気がして,「まあ,立話も何ですから」と玄関に招じ入れたのでした。
 その人は,「私はドライブが大好きで,福井県の勝山から西に向かって昨夜は姫路に一泊。さて今日はどこへ行こうかと思案。……そうだ,若き日の思い出の地,山口を訪ねてみようとやって来ました」と話し始めました。その男性(以下B氏とします)の話の概要は,次のようなことでした。
・B氏の青春時代の某日。自分の住所氏名と挨拶のメモを密封した瓶(以下漂流瓶という)を家の裏の九頭竜川の支流 に流した。
   「夕焼雲大河を下る瓶一つ(大河は九頭竜川)」
・九頭竜川から日本海に流れ出た漂流瓶は海流に乗り西へ流され,関門海峡を経て瀬戸内海のとある海岸に打ち上げられた。
   「渡り鳥西へ西へとメール瓶」
・その浜辺を散歩していたA子さんがその漂流瓶を見つけて拾い上げた。
   「七夕やメール瓶着くとある浜」
・A子さんは漂流瓶からメモをとり出して, B氏の挨拶文読んだ。
・A子さんは「漂流瓶を拾った旨の返事」をB氏宛に出した。
・そのことをきっかけにして以後,B氏とA子さんとの文通が始まった。
・文通を重ねる過程での出来事。B氏が九州旅行の帰途,連絡を取り合っていたA子さんと山陽本線岩国駅プラットホームにて初の対面を果たした。
 以上のように漂流瓶を介して,二人の交際が始まり,次第に交流が深まっていったのでした。ロマンチックでしょう!
 さて,B氏がわが家に立ち寄った場面にたち戻りましょう。問題の木村A子さんが実在するのか。わが集落に木村A子という名に聞き覚えがありませんでした。年齢を尋ねると,B氏より少し下とのこと。
 「ちょっとお待ちください。小学校100年史の卒業生名簿を調べてみましょう」。指でなぞっていく行に,まぎれもなく木村A子の名前(別集落)が。
 「ありましたよ!」「そうですか,ありましたか!」B氏の喜びの顔は,はち切れんばかりでした。名簿にある彼女の現住所は岩国市となっており,婚姻後の姓も記載されていました。
 「彼女を訪ねてみますか? ご希望ならば,もう少しお調べしますが」……
 B氏は即座に応えました。「いいえ,もう充分です。よき思い出をそのままに,錦帯橋を見て真っすぐに勝山に帰ります。どうもありがとうございました」と。
 「お気をつけて。どうぞお元気で!」白い大型車へ手を振って見送りました。
 以上でこの話は終わりです。いい思い出を胸に勝山に帰って行ったB氏は,その後どうされているだろうか? お相手のA子さんのその後は?
 それにしても,漂流瓶による男女の出会いとは,ロマンチックではありませんか!遥かなる日の若い男女の出会いの話,いかがでしたか。
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