有限会社 三九出版 - 「東 北」を 思 う


















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 【特別寄稿】    「東 北」を 思 う

                           
                             庄司 昊明(東京都文京区)

 ※本稿は筆者(リンテック株式会社名誉会長)にお願いし,次の2篇を同社発行の
『LITEC』から転載させていただいたものです。 / 三九出版
○東北よ、再び息吹を○
 東北はその歴史を見てのとおり,1200年ほどの間に中央政権から5度にわたって全面侵攻を受け,そのすべてに破れ,失った国民的地位と財貨は甚大なものがある。桓武天皇の蝦夷(えみし)征討,豪族・安倍氏が滅んだ前九年の役,源頼朝による奥州・藤原氏征伐,豊臣秀吉の奥州仕置(しお)き,そして戊辰戦争。いずれもいわれのない一方的な侵攻で,東北人であれば忘れ難い苦痛である。
 それでも農業・漁業そして自然の恵みと,懐の深い東北は時に駿馬(しゅんめ)や豊富な砂金で中央を潤した。特に江戸時代には,石巻を拠点として,世界一の人口であった江戸の庶民の米を賄った。それにもかかわらず,最後の人災,戊辰戦争が起こる。私ども東北人にすれば不可解・不愉快の極みだが,それを抑えに抑えて明治以降の富国強兵政策にこたえ,軍隊にもふんだんに兵員を送り出し,国難の時は大きな国家の盾になった。この功績は実に大きい。東北の評価も明治以降徐々に上がり,戦後民生の面では新幹線網が他地区に劣らぬ早さで完成された。その直後の震災である。
 東北は肥沃な土地が海岸に接して広がっており,特に三陸はあふれるばかりの緑雨が森林から海に注がれ,カキ・ホタテ・ワカメなどは日本一の味覚と評価された。農作物も独特な旨味(うまみ)があるということで, 地元県民は着実に豊かな生活を築いていた。その矢先の災害で,永年培ってきた富が一挙に皆無になってしまい,慰めの言葉もない。被災者は苦しみ迷っている。父祖伝来の農業・漁業を続けるか否か。そして, 大半のかたはこれが天職, これしかないと不安を抱えながら再起を目指している。少しでも早い復興を心からお祈りしたい。
 何とも腹立たしいのは風評被害。当事者の身になってほしい。日本国内隅々まで,そして海外にもその愚かさを力説したい。また,刮目してほしいのは自衛隊の働き。現政権に言いたいこともあろうに,国民あっての国家という精神に徹し,苛酷な環境での獅子奮迅(ししふんじん)の活躍は感謝の一語に尽きる。 点数稼ぎの一部の政治家に猛省を促し,強く苦言を呈したい
○黄金花咲く陸奥○
 極度の震災に遭った陸奥は,極めて古い歴史を持つ。しかし,それを知らない人があまりにも多い,というのは歴史は征服者側がつくる一方的な物語だからである。何度も東北を侵略した大和朝廷の古都が,岩手・陸前高田市からの護摩木奉納を拒否したように,いまだに陸奥の地理や歴史を学ぼうとせず,科学的論拠さえ受け付けず,頑迷に理解を拒む人たちが,口先だけ“頑張ろう”とか“絆(きずな)”とか言っている。かつて,中央政権がつくった蝦夷(えみし)という蔑称は都の民衆を恐怖に陥れ,攻められる前に攻めるのだという口実にされた。蝦夷は東北地区に住む日本人そのものであるのに。この蔑称が廃れるのは,源氏の安倍氏侵攻のあとになってから。そのころになって,陸奥の教養・文化の高さが分かってきたからである。
 陸奥の文明・文化の源流となる力は1200年以上も前,奈良の大仏建立に際し,窮乏されていた聖武天皇に黄金を献上したことで示された。日本では黄金は採れないとされていた時代にこの喜びは大変なもので,要職にあった大伴家持(おおとものやかもち)はこう詠んだ。
   すめらぎ(天皇)の 御代(みよ)栄えんと 東(あづま)なる
   みちのく山に くがね(黄金)花咲く
 日本古代史において,陸奥を明るく表現した唯一の和歌であり,輝くような豊かさが証明されている。しかし,この豊かな資源と広大な土地に目をつけた中央政権が,陸奥を苛(さいな)むことになる。陸奥の偉さは,その苦痛を抑えに抑えて平和主義を貫き,戦いに勝っても決して西上しなかったことだ。その流れが見事に花開いたのは藤原三代。平和を祈願した浄土世界づくりであった。この時代,源氏・平氏より強力といわれた平泉王国も,後継者が謀略にかけられ滅ぼされることになる。しかしこのあとも,忍従不屈の血が今日まで続いている。なぜこんなに従容として耐えていられるのかと世界中から称賛を受けているのは,東北の歴史が深く静かに,地下水のように生きているからである。東北には悲しい歴史ばかりではなく,明るく楽しい歴史もいっぱいある。 特に,黄金(くがね)花咲くような輝いた時代があったのだという誇りを持って,風評被害にも耐えていってほしいと思う。



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