ふるさとを語る 北海道開拓使と北海道開発庁
小野 紘一（北海道札幌市）
『雪は天から送られた手紙』は，中谷宇吉郎氏（1900〜1962）が残された言葉です。北海道大学教授で氏の研究成果は国際的にも高く評価された物理学者であり，優れたエッセイストでした。世界で初めて人工雪の結晶発生に成功した雪博士として有名であります。
北海道を語るとき，雪を避けて通ることはできません。去る３月２日から３日にかけ，昔はあまり聞いたことのなかった言葉『ホワイトアウト』と言われる猛吹雪で９名の尊い命が失われました。中谷氏は実験室の雪にとどまらず，自然界での猛吹雪についても著書で触れております。氏の研究により空の気象条件によってどのような形の雪の結晶が生まれるのか解明され，雪の形から気象状況がわかるようになったと言われております。また札幌農学校からスタートした北海道大学や北海道立農業試験場を中心とした農業技術の研究開発は，厳しい気象条件を克服し春・夏・秋の豊かな自然環境のおかげで，北海道は日本の食糧基地と言われる大地です。
明治維新の翌年1869年（明治２年）明治新政府は北海道開拓使を置き，本格的に北海道開拓を推進します。欧米に追いつこうと日本の近代化のため，エネルギー源である石炭や硫黄，豊富な木材等天然資源開発は北海道開拓使の基本課題でした。そして道路・港湾・鉄道の整備，鉱山開発，札幌農学校の設置等インフラの整備が着々と進み，北海道農業の基盤が整ったわけです。まさに国家プロジェクトでありました。
開拓推進の担い手は屯田兵と集団移住者でありました。開拓使札幌本庁管内の開拓者は大半が宮城，岩手，山形，福島，青森，秋田の各県からであると開拓報告書にあります。今日の北海道の繁栄は，開拓の鋤・鍬を振るった東北の方々の血と汗の結晶であると感謝しなければなりません。
1950年６月他府県にはいない大臣（長官）を置き，旧建設省予算の10％以上を確保するという北海道開発庁がスタートし，翌年51年にその予算執行組織としての出先機関，北海道開発局が札幌に設置されました。
太平洋戦争に敗れた日本が資源を北海道に求めて総合的に開発するという点では，北海道開拓使とよく似ておりますが，違いは昭和22年施行の地方自治法に基づく地方自治体としての北海道が既に存在していたことです。二重行政のスタートでした。
土地，山林，鉱山，水等の資源開発とインフラ整備は，北海道に大きな経済効果をもたらしました。しかし我々北海道に住む者にとって大切なことは，道民の生活の安定・福祉と文化の向上に資することと自然保護です。北海道に限らず開発は自然破壊を伴い野生生物の生態系を崩してきました。生活の便利さは私たちから環境破壊や地球温暖化を忘れさせます。また大切な税金が，開発と経済合理主義の名の下に無駄使いされないよう監視の目を凝らすことです。中谷教授も1957年の『文芸春秋』４月号に「北海道開発に消えた800億円」と題する論文を寄せ，大きな論争を起こし国会でも取り上げられました。国の第一次５カ年計画（1952年〜1956年）で北海道に投入された税金による開発目標が達成されておらず，疲弊した農漁村を置き去りにしたと指摘されております。無駄使いの一例を紹介します。
丹頂鶴の生息地として有名な釧路湿原を，農地開発の目的で蛇行していた釧路川の直線化工事を十年以上かけて実施しました。結果湿原の地下水位が下がり乾燥が進み，周辺の生態系にも深刻な影響が出始めました。2000年に入りやっぱり直線化は駄目でした。元の蛇行した川に戻しますと再工事にかかりましたが，開発局の取り組みのまずさや見通しの甘さに各方面で論議を呼んでおります。
江戸時代伊能忠敬が日本地図作成のため，弟子である間宮林蔵に依頼して測量のため宗谷地方（稚内地方）に第１歩を踏み入れてから200年，二つの役所により官主導で進められた北海道開発でありました。2001年北海道開発庁（局）は，国土交通省に統合されその役目を引き継ぎました。
ここに貴重な教訓があります。豊かな自然の中での恵まれた生活環境・おおらかな道民性などの反面，道民の競争意識やビジネスマインドの低さは，長い官依存によるものであると言われております。20年以上に亘り低迷する日本経済にあって，北海道経済はより深刻です。自ら知恵を出し，補助金頼み（官依存）の意識から脱皮し自立しなければ北海道の明日はないと自覚し行動することです。
小野 紘一（北海道札幌市）
『雪は天から送られた手紙』は，中谷宇吉郎氏（1900〜1962）が残された言葉です。北海道大学教授で氏の研究成果は国際的にも高く評価された物理学者であり，優れたエッセイストでした。世界で初めて人工雪の結晶発生に成功した雪博士として有名であります。
北海道を語るとき，雪を避けて通ることはできません。去る３月２日から３日にかけ，昔はあまり聞いたことのなかった言葉『ホワイトアウト』と言われる猛吹雪で９名の尊い命が失われました。中谷氏は実験室の雪にとどまらず，自然界での猛吹雪についても著書で触れております。氏の研究により空の気象条件によってどのような形の雪の結晶が生まれるのか解明され，雪の形から気象状況がわかるようになったと言われております。また札幌農学校からスタートした北海道大学や北海道立農業試験場を中心とした農業技術の研究開発は，厳しい気象条件を克服し春・夏・秋の豊かな自然環境のおかげで，北海道は日本の食糧基地と言われる大地です。
明治維新の翌年1869年（明治２年）明治新政府は北海道開拓使を置き，本格的に北海道開拓を推進します。欧米に追いつこうと日本の近代化のため，エネルギー源である石炭や硫黄，豊富な木材等天然資源開発は北海道開拓使の基本課題でした。そして道路・港湾・鉄道の整備，鉱山開発，札幌農学校の設置等インフラの整備が着々と進み，北海道農業の基盤が整ったわけです。まさに国家プロジェクトでありました。
開拓推進の担い手は屯田兵と集団移住者でありました。開拓使札幌本庁管内の開拓者は大半が宮城，岩手，山形，福島，青森，秋田の各県からであると開拓報告書にあります。今日の北海道の繁栄は，開拓の鋤・鍬を振るった東北の方々の血と汗の結晶であると感謝しなければなりません。
1950年６月他府県にはいない大臣（長官）を置き，旧建設省予算の10％以上を確保するという北海道開発庁がスタートし，翌年51年にその予算執行組織としての出先機関，北海道開発局が札幌に設置されました。
太平洋戦争に敗れた日本が資源を北海道に求めて総合的に開発するという点では，北海道開拓使とよく似ておりますが，違いは昭和22年施行の地方自治法に基づく地方自治体としての北海道が既に存在していたことです。二重行政のスタートでした。
土地，山林，鉱山，水等の資源開発とインフラ整備は，北海道に大きな経済効果をもたらしました。しかし我々北海道に住む者にとって大切なことは，道民の生活の安定・福祉と文化の向上に資することと自然保護です。北海道に限らず開発は自然破壊を伴い野生生物の生態系を崩してきました。生活の便利さは私たちから環境破壊や地球温暖化を忘れさせます。また大切な税金が，開発と経済合理主義の名の下に無駄使いされないよう監視の目を凝らすことです。中谷教授も1957年の『文芸春秋』４月号に「北海道開発に消えた800億円」と題する論文を寄せ，大きな論争を起こし国会でも取り上げられました。国の第一次５カ年計画（1952年〜1956年）で北海道に投入された税金による開発目標が達成されておらず，疲弊した農漁村を置き去りにしたと指摘されております。無駄使いの一例を紹介します。
丹頂鶴の生息地として有名な釧路湿原を，農地開発の目的で蛇行していた釧路川の直線化工事を十年以上かけて実施しました。結果湿原の地下水位が下がり乾燥が進み，周辺の生態系にも深刻な影響が出始めました。2000年に入りやっぱり直線化は駄目でした。元の蛇行した川に戻しますと再工事にかかりましたが，開発局の取り組みのまずさや見通しの甘さに各方面で論議を呼んでおります。
江戸時代伊能忠敬が日本地図作成のため，弟子である間宮林蔵に依頼して測量のため宗谷地方（稚内地方）に第１歩を踏み入れてから200年，二つの役所により官主導で進められた北海道開発でありました。2001年北海道開発庁（局）は，国土交通省に統合されその役目を引き継ぎました。
ここに貴重な教訓があります。豊かな自然の中での恵まれた生活環境・おおらかな道民性などの反面，道民の競争意識やビジネスマインドの低さは，長い官依存によるものであると言われております。20年以上に亘り低迷する日本経済にあって，北海道経済はより深刻です。自ら知恵を出し，補助金頼み（官依存）の意識から脱皮し自立しなければ北海道の明日はないと自覚し行動することです。
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