有限会社 三九出版 - ポルトガル滞在記(その2)


















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《自由広場》 
                    ポルトガル滞在記(その2)

                            山本 年樹(神奈川県川崎市)

 3.カスカイスの一日
 子供達の甲高い声で目覚めました。我家の裏庭に隣り合った保育園から聞こえて来ます。リスボンへ通勤する親御さんが,早朝から我子を預けに来ています。朝食を済ませ,身支度を整えて日課の散歩に出ます。住宅街の中を小一時間歩いて,海岸のギア灯台に着きます。門を開けて中に入ると,前にも見かけた野うさぎの親子がちょっと顔を出し,すぐ茂みの中に姿を消しました。岸壁の平らな所に腰をおろし,しばし休憩です。目の前に広がる群青の海を見ながら,水平線の彼方に思いを馳せます。このまゝまっすぐ西へ向かえばアメリカにたどりつくはずです。
 帰りはサイクリングロードが並行している海岸通りを歩きます。見晴しの良い場所で,犬を連れた顔馴染みのご夫妻に会い,早速世間話が始まります。ご主人のジョルジュさんが「日本の皇室に世継ぎの王子が生まれておめでとう。」と言ってくれました。悠仁(ひさひと)親王ご生誕のニュースがポルトガルにも伝わったとのことです。奥様のモウリーンさんはオーストラリア生まれで英語の先生をされています。彼女は日本のことにも関心があり,「神道は宗教ですか?」と難しい質問をしてきます。家路の途中では地獄の口という波の侵食でできた洞穴の前を通り,ヨットハーバーの売店に立ち寄りジアリオ・デ・ノチシアという新聞を買います。
 家に帰ると,既にお手伝いさんのジーナが来て働いています。近所の雑貨屋さんの口利きで週2回来て貰っています。やゝシャイですが炊事・掃除・洗濯をキチンとこなしてくれます。給料は時間給5ユーロ(500円)です。私はシャワーを浴びた後,新聞を読んだり,レコードを聴いたりしてくつろいだ時間を過ごします。最近はモザンビーク生まれの若手のファド歌手マリーザの曲が力強くて気に入っています。午後はザビエル関連の調べ事に時間をとります。リスボンの古本屋で入手した彼の伝記を解説するのに四苦八苦です。彼の死後イエズス会の修道士が著したもので,古文である上にラテン語がかなり混じっています。手許に部厚いポ語の国語辞典とラテン語辞典を置いて,一行一行翻訳していくのに時間がとられ,一日かかって1ページという日もあります。ザビエルはバスク生まれで,パリで神学を学んでいる時同郷の先輩ロヨラに出会い神の軍隊ともいわれるイエズス会を立ち上げます。
 夕食はジーナの得意料理のウサギの煮込みでした。濃厚な味付けなのでタンニンの効いた地元の赤ワインをいたゞきます。リスボンにはテージョ川が流れており,その後背地(アレンテージョ)が昔からのワインの産地となっています。3ユーロ(300円)も出せば美味しいテーブルワインが飲めます。デザートはパォン・デ・ローというカステラの原型といわれるものです。それほど甘くなく素朴な親しみやすい味がします。食後はしばらくテレビ番組のノベーラ(ドラマ)を見ます。最初はポ語の勉強という目的でしたが,見ている内にその内容に引き込まれてしまいます。恋愛,友情などの普遍的なテーマが多いのですが,ローカル色や民族の伝統,風景など見ていると自然に頭に入っていきます。日本との習慣の違いも良く分かります。そろそろ就寝の時間となりました。港の方から霧笛が聞こえてきます。明日は少し天気が崩れるかもしれません。おやすみなさい。
4.個性的な異色ワイン3兄弟
 この国の特産で日本ではあまり見かけないトリオをご紹介します。
(1)ポートワイン
北部の町ポルトのドウロ川流域で作られています。製造過程でブランデーを加え発酵を止めます。甘味が残りアルコール度数が高くなるので食後のデザートワインに向いています。深紅のルビーや琥珀色のトウニーなどがあります。
(2)マディラワイン
 リスボンの西南1000?の大西洋上のマディラ島の名産です。赤道をまたぐ長い航海で太陽光にさらされていたワインが思わぬ熟成により美味に変身していたというエピソードがあります。ブドウ栽培地の高度によって辛口から甘口に4段階の変化を楽しめます。晩年この地に住んだ元英国首相チャーチルも愛飲していました。
(3)ヴィニヨベルデ(グリーンワイン)
 ポルトの北ミーニョ地方の特産です。熟す前の若いブドウを収穫し醗酵させます。口当たりの良い微発泡性の白ワインです。初夏の頃,塩焼きしたイワシと共によく冷やしたヴィニヨベルデがベストマッチです。ポートワインやマディラワインほど長期保存ができませんので,やはり地元で是非トライしてください。





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