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 ☆東日本大震災☆            東北発 ☆ 未来塾

                            北島比呂志(東京都世田谷区) 
                            

 私の所属しているNPO法人ピープルズ・ホープ・ジャパン(PHJ)は東南アジア(タイ,カンボジア,インドネシア,ベトナム,ミャンマー)での母子保健医療支援を行っています。これらの国々の電気,水道のない地区での保健センター建設,深井戸の掘削,助産師教育,妊産婦栄養指導等々,地道ながら“草の根運動”です。2011年3月11日以降は東日本大震災被災病院の復旧・復興支援を始めました。当NPOに全日本病院協会の理事がおられ,会員被災病院(殆どが中小,個人病院で県や日本赤十字社の支援が少ないところ)を中心に支援活動を開始しました。地震,津波の被害で建物や医療設備が全半壊した病院の復旧が始まりました。震災直後には医師,看護師の派遣を行い,賛助企業からノートPC&プリンターを大量に寄贈していただき電子カルテ作成のサポートを行ってきました。また,気仙沼医師会とタイアップして各医院のニーズ調査による必要な医療機器,医学図書や什器の調達を行っています。最近では産婦人科医院に分娩台を寄贈しました。震災以前は気仙沼市周辺の女性患者さんや妊婦さんがその病院を利用していましたが,津波で1階部分が浸水し,病院はかろうじて残ったものの分娩台をはじめ医療機器が流出・損壊で大きな被害を受けました。止むを得ず遠方の病院で出産しなければならないところだった妊婦さん達からとても喜ばれています。
 これらの資金は国内企業,個人や欧州ビジネス協会などの在日海外会社からの募金によるものです。また,震災直後には私たちの支援先であるタイ,カンボジア,インドネシアから,いつも支援をしてもらっているのでと手編みの衣類が届けられました。全国の篤志家からは当NPO・PHJの活動に賛同を頂き,多賀城透析センターへ医療器具の提供や石巻仮設診療所への「ドクターカー」(ミニバンを改良して医療機器を搭載)の寄贈をしてきました。
 3年前の3.11の悲惨な経験は決して拭い切れるものではありませんが,復旧・復興の歩みの中から新たな試みも始まっています。NHK・ETVで放映されている『東北発☆未来塾』には多くの有志の活動が紹介されていますが,その一つで,当NPO・PHJが強く関心を持ったのが医師の長純一さんの活動です。
 現在,被災地の中でも最大の仮設住宅,石巻開成地区仮設住宅には1900所帯,約4000人が入居し,相変わらず厳しい避難生活を続けています。その真ん中に2012年5月開設の石巻市立開成診療所があります。そこの診療所所長に佐久総合病院(長野県)より長純一さんが着任しました。長さんは農村医療の先駆者,故・若月俊一同病院院長の「最後の弟子」の一人といわれていますが,開成診療所では午前中は診療所での診察,午後からは仮設住宅を廻り来所出来ない高齢者の訪問診療を行っていました。PHJは,その活動に賛同しまして,何かお手伝いできることがあればと長先生に申し出ました。長先生は快くこれを受け入れてくださり,前述の「ドクターカー」の寄贈,医療機器の提供等をさせていただくことになりました。
 これが長先生と私どもPHJとのつながりの経緯ですが,長先生は被災地での医療活動と同時にもう一つの目的を持っておられます。それは「地域医療の確立」ということです。「地域医療」とは一口で言うと,「地域のニーズに応えること」そして「チームで守る医療」つまり介護ヘルパー・看護師・理療士などと連携して(特に開成診療所の場合は)仮設住宅の高齢者を支えることを目指しています。また一方で治療に専念する大病院との連携も大事です。“話を聞く”など個々の患者のニーズに応える診療所との役割分担です。長先生は言います,「高齢化が進んだとき,医療だけでは解決できないから,必然的に多くの人たちと一緒にやろうとなるはず。それに気づいた医者は『最先端』です」と。また,「これからは“治す医療”だけでなく,“支える”“寄り添う”“最期を看取る”“生きがいを支援する”という領域が大きくなってくる」とも。そしてそのためには「チーム」が必要であり,そのチームを更に強くするために,医療や介護などの専門家だけでなく,地域に住む人々が参加する新しい「支援システム」を作ろうとしています。医師の長さんは自治会の役員を務め,住民たちと協力して健康を守る,新しい「支援システム」を作るため,その支援の輪を拡大し,住民どうしが助け合うシステムを築こうとしているのです。。
 東日本大震災による災害からの復旧・復興は必ずしも順調に進んでいるとはいえませんが,草の根運動「東北発☆未来塾」の一つの取り組みは将来高齢化社会を迎える「日本地域医療のモデル」になるものと確信します。「ドクターカー」が走り続けるように,私たちNPO・PHJも微力ながらお手伝いを継続して行きます。




 
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