☆ふるさと紹 介
歴史と自然が豊かな余市
西方 正治（北海道札幌市）
私は昭和16年に北海道内で誕生したが，父親の転勤に伴い小学校2年生の時に同じ道内の余市（よいち）町に転居し，以降余市高校を卒業するまでの間をこの地で過ごした。在住期間としては11年と短かったものの，児童・少年期の多感な時期を過ごした「余市」が，今も自分の心の故郷となっている。
余市は，北海道の北西部に突き出た積丹（しゃこたん）半島東側基部の日本海に面しており，歴史や自然が豊かで海の幸，山の幸にも恵まれた現人口20,000人（当時30,000人弱）の小さな町で，小樽から車で30分の距離に位置する。
町内では縄文時代の早期から各年代の遺跡が60ヶ所以上確認されており，古代からの定住地だったことが窺える。海岸から200ｍほど入った小丘陵にある「フゴッペ洞窟」は縄文時代の岩陰遺跡で，壁面のいたる所に原始的な図像が印刻されており，町管理のもと現在も一般公開されている。
また近世江戸時代には松前藩が，藩主や家臣の知行形態である商場（場所）として「ヨイチ場所」を設置した。（米の穫れない北海道では藩主や上級家臣が一定地域におけるアイヌとの交易を商人に委ね，年貢の代わりに毎年運上金を受け取るという松前藩独特の場所請負制） 当時からこの近海はニシンの回遊が多く，場所請負人（商人）による各地の漁場が拓かれて交易も盛んとなった。明治になり場所請負制が廃止された以降も余市は北海道有数の交易場所，ニシンの千石場所として栄えた。しかし昭和29年春の漁を最後に余市湾への回遊が途絶えてしまった。現在，町内数ヶ所の漁港ではエビ，タラ，カレイ，イカなど新鮮な近海水産品は堪能できるものの，ニシン漁で湧いた往時の面影はない。
とはいえ，かつてこのニシン漁で栄えた場所をしのぶ歴史的建造物などが残されており，現存する唯一復元・整備された「運上屋」（重要文化財に指定）や「漁場（番屋など）」が公開されており往時がしのばれる。
また，ニシン漁で唄われた民謡「ソーラン節」は余市が発祥の地とされている。
気候的には日本海を北上する対馬海流（暖流）の影響から、道内では比較的温暖な気候のうえ昼夜の気温差が大きく，果物の栽培に適した気候といえる。余市といえば果物の産地としても有名で，夏はサクランボ，秋にはリンゴ，ナシ，ブドウなどが特産品としてその知名度は高い。
リンゴ栽培に関しては会津藩との係わりがある。明治4年，幕末の戊辰戦争に敗れた旧会津藩士達が余市町に入植したのだが苦労の連続。数年後開拓使がアメリカから取り寄せた苗木を彼らに配布して栽培を奨励。その後の彼らの丹精が余市リンゴ生産発展の礎を築き，現在もその子孫の多くが営農している。リンゴは果実の初期成長期に，防虫や日焼けを防ぐためにすべての果実に袋掛けを短期間のうちに行う必要があり，果樹園の家族総出でも人手不足の状態となる。そこで私が高校生の頃には「袋掛け休み」と称する数日間の休校日があり，私達もアルバイトとして駆り出され，作業したことも懐かしい思い出だ。
余市には，食用はもとより道内一の生産量を誇るワイン醸造用ブドウ畑があり，昨年9月現在町内にあるワイナリーの数は大小合わせて7軒にも及んでいる。国の構造改革特別区域法による「北のフルーツ王国よいちワイン特区」にも認定されており，今後もワイナリーの増加が見込まれている。また日本国内で初めて民間栽培により誕生したサクランボ，リンゴ，ナシ，ブドウなどの果樹園が観光農園になっている。
最近とくに「余市」を全国的に有名にしたのが，スコットランドでウヰスキー醸造技術を学んだニッカウヰスキーの創業者竹鶴政孝の生涯をモデルにＮＨＫが制作・放映した朝の連続テレビ小説「マッサン」（平成14年9月から半年間放映）の舞台として取り上げられたことによる。昭和9年に彼がこの地でニッカウヰスキー余市醸造所を創業した理由は，スコットランドに似た気候条件と水量豊富な清流「余市川」の水を利用できることだったという（余市川はアユの北限生息地でもある）。そしてこのドラマ放映後は工場見学者が激増し今もその状態が続いている。なお町民に親しまれこの地で生涯を終えた政孝の妻リタ夫人（スコットランド人）を偲び，ＪＲ余市駅前通りは「リタロード」と名づけられている。
76年にわたる自分の人生にとって，たったの11年間を過ごしただけだが，歴史文化があり，豊かな自然と山海の恵みに溢れた北海道の田舎町「余市」を今もこよなく愛している。
歴史と自然が豊かな余市
西方 正治（北海道札幌市）
私は昭和16年に北海道内で誕生したが，父親の転勤に伴い小学校2年生の時に同じ道内の余市（よいち）町に転居し，以降余市高校を卒業するまでの間をこの地で過ごした。在住期間としては11年と短かったものの，児童・少年期の多感な時期を過ごした「余市」が，今も自分の心の故郷となっている。
余市は，北海道の北西部に突き出た積丹（しゃこたん）半島東側基部の日本海に面しており，歴史や自然が豊かで海の幸，山の幸にも恵まれた現人口20,000人（当時30,000人弱）の小さな町で，小樽から車で30分の距離に位置する。
町内では縄文時代の早期から各年代の遺跡が60ヶ所以上確認されており，古代からの定住地だったことが窺える。海岸から200ｍほど入った小丘陵にある「フゴッペ洞窟」は縄文時代の岩陰遺跡で，壁面のいたる所に原始的な図像が印刻されており，町管理のもと現在も一般公開されている。
また近世江戸時代には松前藩が，藩主や家臣の知行形態である商場（場所）として「ヨイチ場所」を設置した。（米の穫れない北海道では藩主や上級家臣が一定地域におけるアイヌとの交易を商人に委ね，年貢の代わりに毎年運上金を受け取るという松前藩独特の場所請負制） 当時からこの近海はニシンの回遊が多く，場所請負人（商人）による各地の漁場が拓かれて交易も盛んとなった。明治になり場所請負制が廃止された以降も余市は北海道有数の交易場所，ニシンの千石場所として栄えた。しかし昭和29年春の漁を最後に余市湾への回遊が途絶えてしまった。現在，町内数ヶ所の漁港ではエビ，タラ，カレイ，イカなど新鮮な近海水産品は堪能できるものの，ニシン漁で湧いた往時の面影はない。
とはいえ，かつてこのニシン漁で栄えた場所をしのぶ歴史的建造物などが残されており，現存する唯一復元・整備された「運上屋」（重要文化財に指定）や「漁場（番屋など）」が公開されており往時がしのばれる。
また，ニシン漁で唄われた民謡「ソーラン節」は余市が発祥の地とされている。
気候的には日本海を北上する対馬海流（暖流）の影響から、道内では比較的温暖な気候のうえ昼夜の気温差が大きく，果物の栽培に適した気候といえる。余市といえば果物の産地としても有名で，夏はサクランボ，秋にはリンゴ，ナシ，ブドウなどが特産品としてその知名度は高い。
リンゴ栽培に関しては会津藩との係わりがある。明治4年，幕末の戊辰戦争に敗れた旧会津藩士達が余市町に入植したのだが苦労の連続。数年後開拓使がアメリカから取り寄せた苗木を彼らに配布して栽培を奨励。その後の彼らの丹精が余市リンゴ生産発展の礎を築き，現在もその子孫の多くが営農している。リンゴは果実の初期成長期に，防虫や日焼けを防ぐためにすべての果実に袋掛けを短期間のうちに行う必要があり，果樹園の家族総出でも人手不足の状態となる。そこで私が高校生の頃には「袋掛け休み」と称する数日間の休校日があり，私達もアルバイトとして駆り出され，作業したことも懐かしい思い出だ。
余市には，食用はもとより道内一の生産量を誇るワイン醸造用ブドウ畑があり，昨年9月現在町内にあるワイナリーの数は大小合わせて7軒にも及んでいる。国の構造改革特別区域法による「北のフルーツ王国よいちワイン特区」にも認定されており，今後もワイナリーの増加が見込まれている。また日本国内で初めて民間栽培により誕生したサクランボ，リンゴ，ナシ，ブドウなどの果樹園が観光農園になっている。
最近とくに「余市」を全国的に有名にしたのが，スコットランドでウヰスキー醸造技術を学んだニッカウヰスキーの創業者竹鶴政孝の生涯をモデルにＮＨＫが制作・放映した朝の連続テレビ小説「マッサン」（平成14年9月から半年間放映）の舞台として取り上げられたことによる。昭和9年に彼がこの地でニッカウヰスキー余市醸造所を創業した理由は，スコットランドに似た気候条件と水量豊富な清流「余市川」の水を利用できることだったという（余市川はアユの北限生息地でもある）。そしてこのドラマ放映後は工場見学者が激増し今もその状態が続いている。なお町民に親しまれこの地で生涯を終えた政孝の妻リタ夫人（スコットランド人）を偲び，ＪＲ余市駅前通りは「リタロード」と名づけられている。
76年にわたる自分の人生にとって，たったの11年間を過ごしただけだが，歴史文化があり，豊かな自然と山海の恵みに溢れた北海道の田舎町「余市」を今もこよなく愛している。
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 古希過ぎて，直木賞読破 ⑵ |