有限会社 三九出版 - 「日本語」って不思議な言葉ですね!(その5)


















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☆《自由広場》
        「日本語」って不思議な言葉ですね!( その5) 

             松井洋治(東京都府中市) 

 最近知ったばかりだが,“ファミコン言葉”というのをご存知だろうか? ファミリーコンピューター(N社が開発したゲーム用のコンピューターで,登録商標らしい)で使う言葉かと思ったが,大違い。今回で(その5)となる当連載の(その2)で触れた「お荷物の方」,「一万円からお預かりします」,「コーヒーになります」などの言い方を,最近はそう呼んでいるそうだ。別名「ファミレス敬語」,「コンビニ敬語」,つまり「ファミリーレストランやコンビニエンスストアーの店員が客に対して用いる特徴的な言葉」で,「バイト敬語」という言い方もあるらしい。そういえば,最近,あるレストランで「少々お待ち戴くかたちになります」と言われた。どんな形だろう?
 一方, 新聞の投書で知った実話だが,日本語教室に通っているある外国人留学生が,居酒屋で「さじ(匙)をください」と若い店員(日本人)に頼んだところ「さじって何ですか?」と訊かれ,彼は「日本人は,スプーンは分かっても,さじは知らないんですね」と呆れていたという。そのうち「医者がスプーンを投げる」のかもしれない。  
 おっと,これも解説が必要な時代であろう。ここでいう「匙」は薬の調合に使う匙で,「医者が、治る見込みがないと判断して患者の治療を断念すること」を「医者がさじを投げる」というのだが,こんな洒落た表現も,消えて行く運命なのだろうか?
 先日,3年前に卒業した学生(今は立派な社会人)から,「先生にご相談があります。ご都合を教えてください」といメールが届いたので,「私(非常勤講師)は毎週火曜日だけ大学に伺っている」旨を伝え,会う日と時間,場所は彼女に任せた。そして,届いたメールを見てビックリ。日時はともかく,会う場所について「H (キャンパス内の食堂)の前らへんでお会いしましょう!」と書かれている。確かに,「ここらへん、そこいらへん」などという言い方はあるが,「前らへん」は初めて出合う表現だ。若者言葉に違いないが,日本語はここまで乱れて(崩れて?)しまったのかと思うと,情けなくなる。気にし始めるとキリがないが,若者だけでなく大人の間でも言葉の乱れ・崩れは意外と多い。よく耳にするのが「やっぱ」,「やっぱし」である。本來は「やはり」という副詞であり,変化のしようがないはずだが「やっぱ負けたね」とか「やっぱし思ったとおりだ」など結構耳にする。同じように「ぴったり」を「ぴったし」と
勝手に変化させ,以前「ぴったしカンカン!」などというテレビ番組まであった。私は言語学者でもないのに,確かに「日本語に異常なほど興味を持っている」(中学時代の英語の恩師・86歳に最近言われた言葉)男ではあるが,ここ10年近く,「世界で最も短い文芸」と言われる「俳句」を楽しんでいるせいか,「言葉そのもの」に“異常なほど”敏感過ぎるのかもしれない。あと数ヶ月で喜寿を迎える割には,好奇心ばかり「若い」のである。自分では「惚け(ぼけ)防止」だと割り切っている。
例えば,「事前に打ち合わせをしたの?」などと聞くと,直ぐに「どうして“打ち合わせ”と言うんだろう?」と疑問を持ってしまう。早速調べてみる。そして,「打ち合わせ」は,元々は「雅楽」で使われていた言葉で,雅楽の稽古の時,正しく拍子(ひょうし)を取るために「吹物(ふきもの)」つまり管楽器(「笙:しょう」や「篳篥:ひちりき」など)の奏者たちが,「打物(うちもの)」即ち打楽器(「太鼓」や「鉦鼓:しょうこ」など)の奏者たちと「リズム合わせ」することを「打ち合わせ」と呼ぶことが判明して一人で喜ぶのだ。更に,「雅楽」を調べた時,同時に発見したのが「千秋楽」という言葉。現在では,「大相撲」や,何日にも亘って同じ演目を行う「歌舞伎興行」で最終日を指す言葉として一般的であるが,元々は「雅楽の曲名」だということである。雅楽では,春夏秋冬の四季に応じて,それぞれ演奏する曲が決まっており,秋の演奏会では,必ず最後に「千秋楽」(千穐楽)」という曲を演奏することになっていたらしい。いまは,一般演劇や興行でも「千秋楽」という言葉を使っている。
ところで,数行前に「惚け防止」と書いたが,同年輩の友人たちの中にも,メールや手紙で「ボケが始まったらしい」と書く際に,「呆け」と書いてくるケースが非常に多い。しかし日本語の「ぼける」または「ほうける」には「惚ける」という漢字しかないのだ。「呆」という漢字は,「れる」と送り仮名をして「あきれる」という読みしかない。「痴呆」という言葉の影響からか「ボケる,ほうける=呆ける」と思い込んでいる人が,予想外に多そうだ。この「惚ける」だが,送り仮名の「け」を,「惚れる」と「れ」に変えるだけで「ほれる」と読む。「惚」は,送り仮名によって全く別の意味になる珍しい漢字であることに気づき,さすがに女子大の授業では使わないが,多くのセミナーで「幾つになっても,男性は女性に,女性は男性に,惚れ続けなさい。あなたは決して惚けないから」と,繰り返し訴え続けている。但し,責任は持てない。 
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