有限会社 三九出版 - 《自由広場》    「竹の子医者」の日々 その5


















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《自由広場》 
                 「竹の子医者」の日々 その5
                           星 康夫(東京都世田谷区)

○「大震災」についてもう一言○……前号では「震災の事ばかりで本業の方は書いていない」とお叱りを受けましたが,今号でも少しばかり,その後の事を書かせてください。
 今回の震災による大津波は「想定外」であったと言われていますが,地元の人達にとっては「想定内」の事でした。歴史から見ても十分に想定内だったのです。何が想定外であったかと言えば,今,自分の生きている時に降りかかってきたのが想定外だったのです。東京の直下型地震も十分に想定内であります。しかし出来る事なら,自分の生きている間には,起きないで欲しいと願っています。
 七夕の短冊に,小学校2年生の女の子が「しょうらい,がんにならにように」と書いていた,と。身体の健康も心配だが,この心の傷はどうしてあげたらよいのか。
 被災地では自殺者が増えています。「お墓に避難します」と言い残して自殺したおばあちゃんがいる,と。事実,震災後に私の診療所にも「不安・不眠」を訴えて,薬の処方を求めて来る患者さんも増えました。自殺は自分の意志ですが,これだけ政治が何もやらないと,「暗殺」等と冗談でしょう,と言い難い環境が生まれてきます。あってはならない事ですが。
 被災地では家を失い仮設住宅に住む児童・生徒のために「勉強部屋」の施設が出来たとの事,良いことですね。こんな事を書くと不謹慎だと叱られるかもしれませんが,若夫婦のための「ラブホテル」とは言いませんが,せめて一泊の温泉旅行のプレゼントがあってもよいのでは?

○ヤブ医者でよかった!○……高校の同期生から電話があり,「食事がノドを通らなくなった。近くの開業医を受診したところ,大きな病院を紹介しましょう,と言われた」と。「俺はどうしたら良いんだ」と聞かれました。大学病院時代に食道疾患を主として診察していたので,「それは食道癌だと思う。それもかなり進行している。君の住所からはガンセンターが近いからそこを受診するのがベストと思う」と話をしました。「実にこれは言いにくい事だが,身辺の整理もしておいた方が良い」とも。「わかった,又報告する」で電話は終わった。後日,FAXにて詳細な報告があった。「食道に8cmの病変,手術の適応はなし。抗癌剤と放射線で治療する。5年後の生存率は5%程度」と言われた,と。その後数ヶ月に及ぶ大変な闘病生活が続いたようです。4ヵ月後の報告では「大きなものは,無くなっている。遠隔移転もないと言われ,主治医も診断を間違えたのではないかと思った,とさえ言われた」と。その後数ヶ月間に及ぶ米国旅行を複数回こなし,今も元気です。「お前はヤブ医者だ。診断を間違えたのだろう」と言われそうですが,結構です。こんな素晴らしい結果ならむしろヤブ医者でよかったと思います。

○聞いたことのない病名○……「先生,腰が痛いんです。コツコショウショウが心配なので検査してください」と。問診票には「腰が痛く,骨折院に通っていましたが骨こしょう症が心配です。」
 「そうですか。骨粗鬆症が心配で接骨院に通っていたのですね」「ハイ,骨コショウが心配です」と。故障車の修理は当院では無理ですが,故障者なら診察しましょう。

○遠慮や畏は無用に!○……こんな患者さんもいます。「腰痛が続いたので大きな病院に行ってMRIで診てもらいました。どこも悪い所は無いと言われました。どうして痛いんでしょう?」と。
 「私はそのMRIのフィルムも見ていませんし,何とも言えません。検査を受けた病院で聞いてください」「でも,大きな病院では色々と聞きにくいんです」と。しっかりと説明しない方も悪いが,そこでしっかりと聞いてこない貴方もちょっと変じゃないですか。

○「医学博士号」の恩恵は?○……学位には,博士・修士・学士とあります。博士号は医学,工学に多く,文系は少ないようです。特に医学博士が多いのですが,医師は卒業後に殆どが大学の医局に入りました(現在は研修制度が新しくなり,変化したようです)。医局で研究,臨床を学びながら,研究者,教育者として大学に残るか,大学を離れて一般病院の勤務医となるか,この区切りの時期が学位の取得の時期であったと思われます。博士号を取得したからといって特に大きな「恩恵」がある訳ではありません。
 戯言を一言,「医学博士号は,足の裏についた飯粒のようなものだ。取っても食えないが,取らないと気持ちが悪い」。
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