有限会社 三九出版 - 	〈花物語〉 ユ ウ ガ オ


















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                     〈花物語〉  ユ ウ ガ オ
                           小櫃 蒼平(神奈川県相模原市)

  ユウガオの名は,こころあるひとに,幸せ薄い女性をユウガオに重ねた,紫式部の『源氏物語』を連想させる。夏目漱石に「淋しくもまた夕顔のさかりかな」という句があるが,おそらく『源氏物語』が種だろう。
 夜咲く花に白花が多いことについて,あるひとは,夜は白花がよく目立ち,受精のために昆虫を引き寄せるのに都合がよいからだという説もある,といっている。ユウガオの花が白いのはその所為であろうか。
 北前船が羽振りを利かせていたころの話である。丹後の宮津の傾城町にある小店,辰巳屋の抱えに,小萩という女郎がいた。小萩は,客の男たちから〈癆咳でも病んでいるのではないか〉と言われるほど,肉づきの薄い,白蝋色の肌をもった女だったが,妙に客受けがよかった。小萩と枕を交わした男は,宮津に滞在中,小萩のもとに流連した。そして不思議なことに,旅立った男たちの多くは二度と戻ってこなかった。北前船の船頭は時化で,富山の薬売りは吹雪で死んだという。みんな〈非業の死〉を死んだ ― これは風の噂。でも,小萩には毎夜毎夜客がついた。
 傾城屋の亭主はひと夜,女房に言った,「小萩は,まるでユウガオのようだ」と。「ほんに,暗闇の中に白い花咲かせて虫を引き寄せるユウガオは,まっこと小萩にそっくりな……」と,女房もわらって言ったとか。
 その小萩もとうに死んで,いまはむかしのお話。

※「淋しくも……」/『漱石全集 第17巻 俳句・詩歌』岩波書店

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