有限会社 三九出版 - “お陰さま”と教育


















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                    “お陰さま”と教育
                          笹氣 光祚(宮城県仙台市)

 東日本大震災という事故に出遭ってから,一年数か月が過ぎようとしています。被災現場は今,世界中の人々からの沢山の援助をいただきながら,同時に,悲しい気持ちを忘れるようにと,必死に立ち上がろうとしています。
 この立ち上がる「力」は,どこからくるのでしょうか。漢字ではお互いの結びつきという意味でしょうか,「絆」が元になると言われています。しかし本当の「力」は,日本人の持つ,世界ではあまり見られない「お陰さま」という思想ではないかと思います。自分が「生きている」のは,世の中に「生かされている」からという考え方です。他人のことを思いやり,誰かの助けになりたい,悲惨な気持ちになっている人々を一日も早く元気にしてあげたい,一人でも多くの人々を立ち直らせたい,という思いの高まりが日本中でボランティア活動を活発なものにしました(その頂点にあるのが天皇陛下の被災地訪問に表れているように思います)。そのお陰さまで被災者の方たちも自分の中にある立ち上がる力に気づき育まれたものと思います。
 また,多くの人たちが,目の前で,消えていく「命」を目撃しました。ある調査の結果では,若い娘たちが通過儀礼である「自殺」を全く考えなくなったという結果が出ているとのこと。人々の生きる力が見えてきますが,この力は犠牲になられた方たちが身をもって与えてくれたものと思います。

 古来日本人は,新しいものを作る力もですが,改善力・応用力に秀でているように思います。随分前に世界から日本が非難されていた言葉に「物まね」があります。しかし(どこかの国と違って?)日本人は,物まねをするにもどこかに新しい「創意・工夫」を入れています。家電製品でも輸送機器でも,より便利なもの,より安全なものを目指して作ってきたお蔭で,世界に冠たる産業を育ててきました。まさに創意・工夫です。その創意・工夫の力の中にも,やはり「お陰さま」があると思います。それは特定の人のためでなく,他の多くの人のためになることをしようとする力だからです。そしてその力の中には常に温かさと笑顔があります。
 ところで,近年,若者の「学力」の低下が言われ,問題になっています。言うまでもなく,「学力」には教えられたことを「覚える力」「応用する力」等が含まれていますが,中でもその「応用する力」,創意・工夫には無くてはならない力が低下しているように私には思われます。同時に私は,成長・進歩するために不可欠な「競争する気持ち」「向上心」も低下しているように思えてなりません。一時もてはやされた「皆に公平に」とか,「かわいそうだから」という一見ロマンチックで皆に受け入れられそうな言葉で,ヒトの成長に必要なそれらの気持ち・心を身につけさせることがおざなりになってきたように思うのです。他人を認め,それよりも上を目指そうという競争心がなくなったと同時に,自分との競争もしなくなっています。そこには“お陰さま”を含む「創意・工夫」の力が生まれにくくなります。
 最近騒がれている「ナデシコ」を応援することの中にも,「オリンピックまで勝ち続けるためにどうしていくのか」という競争心を掻き立てる潜在的な力と期待があると思います。またそれと同じとは言いませんが,私が高校の時,定期的な試験の後には必ず職員室の前に「成績順位表」が貼り出されました。300余名の学年で,200番以下の名前は表示されません。その中に入れるように努力しました。
 要するに,低下しているのは「学力」だけではなく,人が生きていく中で必要な,肝心なこと,基本的なことを教える機会が減っているということではないでしょうか。

 古希を過ぎた今の私にとって,高校・大学で一生懸命勉強して得た「知識」はほとんど覚えていません。大学で初めてコンピューターというものに接し,時代の先端を行くと思っていたのに,今のフェイスブックは使えません。学力の偏差値とはどんなものか,未だに自分の生活からは縁の遠いものだと思っています。そんな私は一人前の社会人になってから,ある人が言った「原点に返れ」という言葉を大切にしています。困った時,悩んだ時に,もともとは何だったのか?を考えるようにしています。同時にそのあるべき姿を考えます。お陰で,父が育ててきた会社の,技術的大変換期を無事に乗り越えてきましたし,20数年前に創業したニュービジネスの会社も,順調に育っています。このことが「学力」とどうつながっているのかは分かりませんが,「原点に返れ」の一言と共に多くの方々のお陰であると思っています。そしてそこで育てられた「向上心」を人生の終焉の時まで捨てることのないようにしたいと思っています。
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