有限会社 三九出版 - 今,私が大切に考えていること


















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                 今,私が大切に考えていること 

                           荒巻 浩明(東京都世田谷区)

 60代になった頃,親しい友人達と「20年後に日本はよくなるか悪くなるか」について賭けをしたことがあった。「20年後」としたのは,我々が生きている間に結論を得たいと思ったからである。「よくなる」としたのは私1人,「悪くなる」としたのが1人,もう1人は「わからない」という結果だった。
 それから10年余を経て70代に踏み出した最近の日本をみると,私は「賭け」に負けるように思うようになり,焦りを感じ始めた。その顕著な現れは,「いじめ」や「児童虐待」にみられる教育(将来世代育成)の荒廃である。
 その背景には,わが国経済の停滞や政治の貧困,これまで世界を支配してきた共通の価値(民主主義の自由や平等,経済的な豊かさなど)への不信や国家目標の喪失もあるのだろう。これを打破するために,70年以上生きてきた「我々は何をしたらよいか」を考えさせられる。
 我々が生きてきた時代, 幼児期からもの心がつくまでは「戦争」とその後の「混乱」,その後は「戦後復興」のなかで過ごした。学校を卒業した頃からは経済の高度成長期に入り就職機会に恵まれ,仕事に就いてからは成長の一翼を担って,迷いもなく働いてきた。その時期,心がけていたのは「ともかく一生懸命働くこと」。それが「豊かで明るい未来」につながると思ったからだった。その過程で失敗や成功を繰り返しながら,種々の問題への判断力や知見を得てきた。
 そうした知見のなかで,今,最も大切だと思うのは複数の視点を持つことである。若い時代は,個人の信念とか利益,立場といったいわばミクロからの視点に傾き勝ちだった。けれども,年齢を経て,例えば部下を持つ立場になってから考え,努力するようになったのは,自分個人だけでなく,自らの属する集団(組織,会社や国など)全体の立場から問題を考えるというマクロの視点も加わり,これら複数の視点から判断する習慣が身についてきた。今の我々に必要なことは,過去の自分自身や自分たちの国の歴史的な出来事(とくに失敗の例)を,当時とは違った視点で見つめ直し,そこで得た考えを後の世代に伝えることではないかと思っている。
 翻って最近の世界情勢を見ると,唯一の超大国・米国の力の衰えからか,各国がそれぞれの国益を主張し,国際関係が緊張した世界的大恐慌後の1930年代と似た状況になっている。今こそ,過去の歴史から学ぶべきものが多いのではないか。
 具体的には,マクロの面では,1930年代の日本の政治・経済政策――軍部主導の統制経済と軍事費捻出のための国債増発――により戦争に追い込まれていった経緯をもう一度点検してみること。そして歴史の失敗を繰り返さないために,どういう政策選択が可能だったか振り返り参考にしてみる必要があるのではないか。
 そしてミクロの面では,戦後強まった個人の権利や個別利益を強く主張する風潮はよいとしても,全員がそれを主張し実現した場合,国全体の利益とどう調和するのか(例えば,税の負担と福祉・公共面の充実)についても併せて考えて,決断していくという態度を伝えることも必要ではないか,と痛感している。
 私自身は,比較的行き届いた教育の機会に恵まれ,仕事を通して「人を育てること」を大切にしてきた。そこで得た経験を次の時代に生きる世代の,判断材料として提供することを通じて彼らに役立ちたいと思う。
                 

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