有限会社 三九出版 - 仕 事 あ れ ば こ そ


















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                 仕 事 あ れ ば こ そ

                           阪本 衛(大阪府大阪市)

 昨年6月,古希を迎える私に,一人娘の長女から祝品に加え,メッセ−ジが添えられていた。「お父さん,古希おめでとう。いつも私たちのことを気にかけ,応援してくれて本当にありがとう。お父さんの若々しさと日頃の活躍ぶりは,とても古希を迎えるように思えませんが,素敵な歳を歩まれている証拠かと,自分のことのように嬉しく思います。(以下略)」
 また昨年,50数年ぶりに中学時代の同窓会に出席した。当時大親友だったA君から,肩書きに「隠居見習い」と書いた名刺をもらった。9割の同級生は現役を退いていたが,正面からつくづく凝視すれば,ほぼ全員が“残骸”に見えた。ギョッとしたが,自分も“残骸”に見えるに違いないと思いつつ,69歳というのは,人生行路で何か後戻り不可能な重要なものを踏み越える歳に違いないと思った。ところが仲間と杯を傾けながら昔話に花を咲かせているうち中学時代にタイムスリップしたようで,確かに歳を取ったが,好ましい男性が一人,二人,三人といるではないか! 話の調子からすると,私自身も案外好ましい男の一人に映っているようだ。

 人生には節目がある! 個人個人によって異なるが,35歳,55歳,75歳がそれだと,私は思う。そしてこの「節目」とは同時に「峠」である。そこを越せば新しい道が始まるが, 越さなければそれまでの道が続くだけである。この峠を越える力は何か?「仕事」である。それ以外にはなく,仕事は人生のメインファクターであると思う。冒頭に紹介したように私が若い(と見えたり,思われたりする?)のは仕事を続けているからである。
 「企業戦士」といわれた時代に銀行員として育った私は,大阪・東京・神奈川・名古屋・高松・広島勤務を通じ,数多くのお取引先の方々や苦楽を共にした魅力ある「出会い」の中で,思う存分自由闊達に仕事をさせて頂いた。そして銀行退職後も病院・介護施設勤務を経て,今なお中小企業経営に携わっている。その中で次のような信条を持つようになった。「一生勉強! 一生青春!」「朝は希望を持って起き,昼は努力に生き,夜は感謝に眠る。掌を合わせ,ありがとうと思う倖せ!」である。
 これからの残された人生は,気力・体力・集中力・判断力・忍耐力……の劣化との戦いになる。仕事も遊びも60歳代までは第一線だといわれているが,この信条とともに,私の好きな言葉「青春とは人生のある期間を言うのではなく心の様相を言うのだ。年を重ねただけで人は老いない。理想を失うときに初めて老いが来る」という,サミュエル・ウルマンの「青春の詞」の一節をこれからの人生の大きな支え・心の糧として,「年寄りの冷や水」と言われようとも第二線?で頑張りたいと思っている。そしてそのためには少し不満を持った普通の生活が最良の選択と信じ,「知的好奇心を失わないこと」,「映画や芝居の鑑賞・読書などで涙が流せる感性を持ち続けること」,「世の中の不正やスキャンダルに怒る炎を燃やし続けること」 等に心がけ, 常に問い直し,人生に何を求め,周囲とどんな関係を持ち,何を幸せと感じるかに目を向ける日々を送りたい。

 しかしながら,それが出来るのも前述のように「仕事」があればこそである。そしてそれにはまず健康であることが欠かせない(病気の人に「仕事を」と言っても無理な話である)。「仕事をする」,これが七十歳代の健康な男の使命である。
それにつけても,今なおそれが出来ている私は,仕事の機会を与えてもらっている現在勤務先の社長,私の心情を理解して支えてくれている同僚や取引先の皆さん,妻,娘,孫にも感謝の気持ちでいっぱいである。


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