有限会社 三九出版 - 世界に誇る日本の風物詩の中から


















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【特別寄稿】           世界に誇る日本の風物詩の中から

                         庄司 昊明(東京都文京区)

 ※次の2篇は,前号に引き続き筆者(リンテック株式会社名誉会長)にお願いし,
同社発行の『LINTEC』から転載させていただいたものです。
――上のタイトルは小社。・三九出版

○ 桜 ○(2013年 Spring 『LINTEC』から転載)
 日本人の心の花,日本人の在り方を映す花として,古今多くの人たちが桜への思いや親しみを詠み,歌い,書いている。土井晩(ばん)翠(すい)の歌碑「荒城の月」の拓本が,本社の私の部屋に掛けられている。“春高楼の花の宴”。私も,桜との縁は数多くある。
 まず,初めての外遊(1960年)で,アメリカ・ワシントンD.C.のポトマック河畔において満開の桜に出合ったこと。その美しさ,喜びは生涯忘れられない。今と違って観光客などなく,閑静で雄大な美しさに,ただただ感激するのみであった。同じく初めてのロンドンで,日本大使館が面する通りに濃密な八重桜の街路樹を見たときには,日本と英国の古い同盟関係に思いを馳(は)せた。
 リンテックの本社は石神井河畔にあり,毎年見事な桜を楽しめる。散った花びらが川面いっぱいに広がり,まるで陶器の芸術的な絵付けを見ているような神秘性がある。少ない予算の中で,この地に貴重な名所をつくった先人たちの心意気に感心することしきりだ。
 私の家の近くにも東京の隠れた名所,播磨坂桜並木がある。車が通らない遊歩道の小空間は,私の健康を支えてくれる散歩道として天国である。桜花爛漫(らんまん)の時ばかりでなく,一年中マイペースでこの道を歩き,楽しんでいる。
 私は旧制二高の明善寮に学んだ。若い者でも80歳を超えるという同窓が,金科玉条の集いとしているのが,小石川後楽園での桜(はな)見総会である。1年に1度,少なくなった生き残りもその日ばかりは侍となり桜を楽しんでいる。
 前大戦でのアメリカ陸軍442連隊にも触れたい。この部隊はアメリカに忠誠をささげた日系人部隊で,史上最強・勇猛果敢,大変な戦果を上げた。当時の日系人への人種差別と偏見に耐え,命を懸けて日本人の優秀さを大統領以下,アメリカ全国民に示したことは知れば知るほど感涙を禁じえない。今存命の戦士たちは90歳を超えている。日本に招きたいと思ってもなかなか実行できない。もし招くことができたなら,一にも二にも日本の桜をお見せしたい。これ以上のおもてなしはない。442連隊の戦士は身も心も桜なのである。


○日本の夏に思う○(2013年 Summer 『LINTEC』から転載)
 スポーツの世界で,日本のみが持つダントツが二つある。一つは大相撲,これは伝統的国技として研鑽。国籍を問わず「真の日本人」をつくっているという稀有な存在に,敬服を禁じえない。もう一つは夏の甲子園高校野球である。決して野球先進国ではなかった日本が営々と育ててきたもので,これほどの国を挙げたスポーツ文化は世界にも稀(まれ)である戦前の中等学校野球から現在の高校野球へと引き継がれてきた偉大な歴史の所産である。なぜ世界に冠たるものか。全国津々浦々の高校ほとんどが参加するという,その規模の大きさは他国では見られない。全国各地で覇を競って栄冠を受け,盛夏の甲子園に結集して最後に日本一を目指す。このとき各校は優勝という一つの目標に向けて正々堂々とした戦いを繰り広げ,さらに全国民を巻き込んで夏の国民的大イベントとなる。汗と涙,歓喜と嘆息,若者のエネルギーが極度に昇華され,負けが一度も許されないトーナメント戦に国民の活力も大きく刺激される。
 アジア周辺国が近年,経済・文化の面で,もう日本を追い越した,日本から学ぶものはない,まして成年の体力も自分たちの方が勝るといっていると聞いて私は反論したい。たとえ彼らが,甲子園のような文化をうらやましく思っても,これは一朝一夕にまねできるものではない。過酷なまでの鍛錬と1点差でも敗北したら後がないという非常な現実を克服するという,心身両面の歴史的所産であることは彼らにもわかっているはずだ。なぜなら,第2次大戦前の20年間,大陸や台湾の中等学校が日本の甲子園を目指し,同じ苛烈な精進を重ね,檜(ひのき)舞台で大活躍をしていたのだから。今日の日本との友好の絆は,こういう一つの目標を目指した文化の延長でもある。
 甲子園の季節が訪れると,毎年,日本の青年は大丈夫だ,健全だ,日本の国の将来も大丈夫と確信するのは私のみではないと思う。目下約4,000校の頂点を目指し,高校の若者は激戦中である。どうか心からの声援を送ってほしい。



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