有限会社 三九出版 - ポルトガル滞在記(その3)


















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《自由広場》 
                    ポルトガル滞在記(その3)

                            山本 年樹(神奈川県川崎市)

 5.心に残る町
 ポルトガルは国土がほぼ北海道位ですが,世界遺産は15もあり見所の多いところです。個性的な町々が多く,「リスボンは歌い,コインブラは学び,ポルトは働き,ブラガは祈る」とも言われています。その中でも特に印象が深く,思い出に残っている町を挙げておきます。
(1)ポルトガルの首都,リスボン
 テージョ川の河口にあり,7つの丘の街と呼ばれるほど起伏が激しく,ケーブルカーやエレベーターが見晴しの良い展望台へと運んでくれます。まず市内唯一の城,サン・ジョルジェ城に登ってみましょう。ローマ人,ムーア人(イスラム教徒),ポルトガル人と3代にわたる歴史の変遷を実感することができます。そして,名物市電28番線に乗ると,高台のカモンイス広場から下町のアルファマまで狭い路地を駆け抜けていきます。観光客で満員の時はスリにご用心。街の守護聖人サン・アントニオの誕生祭は,各地区からの賑やかなパレードが深夜まで続きます。別名イワシ祭りともいわれ,下町ではイワシの炭火焼の匂いが漂っています。この時期,紫のジャカランダの花が見頃となります。足を伸ばして西部べレン地区を訪れると,大航海時代の遺産ジェロニモス修道院,ベレンの塔,発見のモニュメントなどが観光スポットです。修道院直伝のレシピに基づくエッグタルト(現地ではパステス・デ・ナタ)の有名な店でつくりたてを買い,歩きながら頬ばるのが楽しみでした。
 リスボンは1755年の大地震で死者6万人,街も崩壊しました。保存されているカルモ教会の残骸が当時の激しい揺れを物語っています。復興の立役者がポンバル侯爵で,街は生まれ変わり,世界中の人々を惹き付けています。あの名画「カサブランカ」のラスト・シーンを覚えておられますか? ハンフリー・ボガードが空港でかつての恋人のイングリッド・ハーグマンとその夫を見送るシーンです。離陸する飛行機の行先がリスボンでした。当時中立国だったポルトガルはナチスから逃れた人々がまずリスボンへ脱出し,自由の国アメリカへ渡ったのです。
(2)ポルトガル発祥の地,ギマラエンス
 北の商都ポルトから鉄道で約1時間半,そこに中世の面影を残す世界遺産の旧市街があります。街の広場入口の壁には,ポ語で「ポルトガルはここに誕生した」とあります。初代国王アフォンソ1世が12世紀初頭にここの城内で生まれたことによります。父はフランス・ブルゴーニュ家のアンリ伯,母はスペインのレオン・カスティーリャ王の娘テレサでした。アンリ伯の死後,テレサはスペイン西部のガリンア貴族と結びつき,レオン王国に帰属しようとします。19歳となっていたアフォンソ・エンリケスはこれに反発し,仲間の貴族を集め母の軍隊を破り,父の称号ポルトカレ伯を名乗りました。そして南部へも進軍し,1139年オウリッケの戦いでイスラム軍も破りポルトガル王を自称しました。(国名の由来となったポルトカレは,ドウロ川の右岸をポルト,左岸をカーレと呼んでおり,この地域を総称する言葉でした。)城の近くにはアフォンソ1世が洗礼を受けたというサン・ミゲル礼拝堂や王の銅像もあり,900年前の出来事が目に浮かんできます。その後アフォンソ1世はリスボンもイスラムから奪回し,全土に君臨することになりました。
(3)檀一雄が愛した村,サンタ・クルス
 リスボンから車で北上すること1時間半,そこに最後の無頼派と言われた作家檀一雄が1年4ヵ月住んだ街があります。40年以上も前のことで,当時は人口約200人の小さな漁村でしたが,今では夏場海水浴客で賑わうリゾート地となり,宅地開発も進んでいます。檀一雄はここで「火宅の人」を執筆しながら,村の人々と交流を深めていました。日曜日には背広姿で海岸通に現れ,みんなに「プロフェソール(教授)」と呼ばれていました。村人達を自宅に招き,スズキやタイを自らさばいて振舞いました。その時開けるのはいつも自分と同じ名前の「ダン」ワインでした。地元特産で深みのある味です。私は彼が住んでいたという家を訪れましたが,その家は檀一雄のことは聞いてはいるが,面識はないと言っていました。家の前の通りの道路標示は「檀教授通り」となっていました。海岸に出ると,白い砂浜が続いており,そこに日本語の石碑が設置されています。彼の俳句が刻まれており「落日を拾ひに行かむ海の果」とあります。彼はここの夕日に,ことのほか感銘していた様子で,「美しいものは落日である。落日に続く夕焼けだろう。」とエッセイ集「来る日去る日」の中に書いています。異郷で夕焼けを見て立ち尽くす彼の想いが伝わってくるようです。






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