有限会社 三九出版 - 〈花物語〉   雪  柳 


















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          〈花物語〉   雪  柳 

          小櫃 蒼平(神奈川県相模原市)

昔むかし,といっても,平安時代の初め,京の街はまだまだ百鬼夜行魑魅魍魎の跋扈する空間で,安倍晴明に代表される陰陽師がひとつの職能として社会的に重用されていました。つまり,そうした人びとの力が信じられていた,不思議な時空が存在していたころのお話です。
丹波の国に一匹の白うさぎがおりました。この白うさぎ,柳の枝に跳びつく蛙を見て刻苦勉励,のちに“三蹟”のひとりとなった小野道風の話を聞き,自分も蛙のように人間の役に立ちたいと上京,毎日毎日,賀茂川の堤で柳の枝に跳びついておりました。 この白うさぎ,〈 柳に蛙 〉の話で大事なのは道風の“才能”で,蛙ピョンピョンは単なる“きっかけ”にすぎないということに思い及ばなかったのです。何よりも都にはもはや才能のある人間など疾うに払底していたのです。だから「アホうさぎ、何やってんねん」というのが,京の人びとの反応でした。
空の上からそれを眺めていた神さまは,白うさぎのこころ根を哀れに思い,せめてもの慰めにと,うさぎの真っ白な毛を花に,まろやかな姿形をしなやかな枝葉にうつして〈雪柳〉に変身させました。そうです,〈雪柳〉はこころ優しい丹波の白うさぎの生まれ変わりです。もっともこの話には異説があって,白うさぎは一度〈雪うさぎ〉に変身し,のちに〈雪柳〉に再度変身したというのですが,その真偽は不明です。
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