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☆《自由広場》

                不確実性の経済を考える・第10回
            人 工 知 能 シ ョ ッ ク

             吉成 正夫(東京都練馬区)

この「不確実性の経済を考える」のシリーズを始めたのは2年半前でした。この間のIT特に人工知能の進歩に驚いています。
今年3月に行われた人工知能のアルファ碁(グーグル・ディープマインド社開発)と世界最強の李九段プロ棋士との対決は4勝1敗でアルファ碁に軍配が挙がりました。一局の対戦で,囲碁の選択肢は10の360乗あるそうです。それがどのくらい凄い数字なのか。「京」は1秒に1京回の演算ができるスーパーコンピューターですが,この「京」を1京台つないで1年がかりで計算しても10の40乗にしかなりません。人工知能がプロ棋士を破るのはまだ先のことだと言われていました。それがなぜこの時点で惨敗してしまったのでしょうか。
1965年にインテルの創業者の一人であるゴードン・ムーアは経験則に基づき,「集積回路上のトランジスターの数は1年半から2年ごとに倍になる」と講演しました。彼自身は先行き10年程度を考えていたようですが,その後「ムーアの法則」として定着し,50年経過した今もそのスピードで技術進化してきました。当初の10億倍です。この技術進歩が質的変化をもたらし,ビッグデータの処理を可能にしました。これまで人間がコンピュータに知識やルールを入力して演算を処理してきましたが,これでは限界があります。今ではコンピュータ自身が大量のデータの中から知識やルールを獲得できるようになりました。これを「機械学習」と言います。さらに脳神経細胞(ニューロン)のネットワークをコンピュータに模擬的に再現する「ディープラーニング(深層学習)」ができるまでに進化しました。
レイ・カーツワイル氏は発明家で思想家ですが,著書「シンギュラリティは近い 人類が生命を超越するとき」という著書で人工知能が人間の知性を超えるのは2045年としています。シンギュラリティとは「技術的特異点」のことで,氏は「テクノロジーが急速に進化し,人間の生活が後戻りできないほど変容してしまうような、来たるべき未来のこと」と定義しています。グーグルが人工知能の最前線を走っていますが,カーツワイル氏がグーグルの人工知能開発の総指揮を執っています。
20世紀後半に,量子コンピュータの計算モデルが提唱されていましたが,実用化は100年先と言われていました。ところがシカゴのD-Wave System社が2011年に量子コンピュータシステムD-Wave Oneを発売し,2012年,その後継機であるD-Wave TwoをNASAとグーグル社が共同購入しました(「量子コンピュータが本当にすごい」(竹内薫著,PHP新書,2015))。現在も急ピッチに開発が進められており驚異的な能力の量子コンピュータが開発されるそうです。
私見ですが,「歴史や経済等データ値は無数の選択肢から一つが選択されたもので,未来は無限の選択肢が選択されないままに広がっている状態にあると考えています。時間が経つにつれて,その中から一つが選択され歴史や経済等のデータ値に組み込まれていきます」。ですから未来を予測するには現在の統計分析を積み重ね,あとは洞察力の勝負になるはずです。そうした優れたエコノミストとして私が尊敬しているのは高橋亀吉氏と下村治氏です。
しかし,囲碁の膨大な選択肢を難なく読み解く人工知能が現れたということは,これまでの経済理論や投資理論の考え方を大幅に塗り替えることになりそうです。「本物語」では本号で「暴落は正しい秩序」(複雑系の科学 その3),次号以降では「心の歪みと経済」と題して「行動ファイナンス」について2回,最終章「未来に向けて」で人工知能にも触れる予定でした。そうしますとあと1年かかります。
これからの経済・金融などの理論は,インターネットにつながった「ビッグデータ」や「IoT(Internet of Things)」で人間行動が解明されていくに違いありません。「人工知能」や量子コンピュータが実用化される前と後では文字通りの「パラダイム・シフト」(思考の枠組みの大転換)になるとの予感があり,「不確実性の経済を考える」シリーズを一旦中断して,これからの未来をじっくり観察したいと考えました。
人工知能以前の科学は複雑で多様な人間行動を解明するには不十分でした。これからは,経済,医療,教育,文学など,あらゆる分野を人工知能が変革していくでしょう。白と黒の碁石で勝負する囲碁とは異なり,人間はそれぞれが意思をもって行動いたします。人間社会では随所に「初期値の敏感性」が働き,予測しがたい面があることは確かです。しかし近未来には,人工知能が多くの人間の活動分野を浸蝕し,経済や社会の仕組みに大きな影響を与えそうです。いま,レイ・カーツワイル氏の超楽観論とジェームス・バラット氏の超悲観論があって人工頭脳から目を離せません。 
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