☆《自由広場》
詠歌友達との再会
田中 富榮（徳島県徳島市）
高野山大師教会で共にご詠歌を習った友達のＡさんから，一度会いたいねと電話をいただいた。そういえばあの頃楽しく付き合った詠歌友達と，もう5～6年会っていない。春秋の年2回開催される高野山詠歌一般講習会にいつも出席していた友達4名は15年間講習に通い続け，大師教会で合宿し，4泊5日寝起きを共にして勉学に励んだ仲間であった。久しぶりにみんなが寄り合ってご詠歌を唱えたいと思った。四国には「四国霊場88ヶ寺札所」があり，徳島県は発心の道場と呼ばれ1番～23番までの札所が地域に点在している。わが家の近くには17番札所井戸寺がある。友達をわが家へご招待して井戸寺の本堂と大師堂の前でご詠歌をお唱えし，お大師さんに聴いていただいたら心が晴れるなあと思った。善は急げとばかりに早速私は4名の友達（神戸，岡山，名古屋）に連絡をした。
せっかく四国へ詠歌友達がやって来るのであるから，遍路ころがしと言われている難所中の難所，神山にある12番札所焼山寺の奥深い山のてっぺんで思う存分ご詠歌を唱えてみたい気持ちになった。今年は詠歌友達も80歳の傘寿を迎えている。焼山寺参りはこれが最後になるかもしれない。是非みんなを案内したいと夢が膨らんだ。そして神山へ行くからには緑の木々に包まれた神山温泉で一泊して，詠歌講習会の思い出話を語り合いたい。懐かしい高野山の風景や奥の院やおいしい「かさ国屋」の饅頭など講習会の度にみんなと歩いた高野山の町が浮かんできた。
再会を心待ちしていたその日（1月15日），徳島駅で4名が出会い，知り合いのＮさんの運転で焼山寺へ向かった。久しぶりの再会でありみんな興奮気味だった。今年の冬は暖冬であり，天気もよく，こんな美しい山の中でご詠歌が唱えられるのは幸せだと喜んでいた。 私たちは焼山寺の本堂と大師堂の前で一列に並び， 般若心経一巻上げ，続けてご詠歌「金剛」「光明（こうみょう）」「梵音（ぼんのん）」，次に和讃（仏や菩薩の徳行を歌で教え賛美したもの）「いろは歌」「相互供養和讃」「法悦歓喜」など声を張り上げて次々お唱えした。懐かしい講習会の情景や講師の先生方や一緒に学んだ多くの友達の顔が目に浮かんだ。唱え込んだ私たちの声は静かな山に響き渡ったのである。心も体もスカッとして気持ちよかった。
ご詠歌は「行」であるから高野山では朝5時に起き，下座行（清掃）をしてそれから朝食，8時半からご詠歌の授業が始まり昼食の1時間の休憩を除いて夕方5時まで勉強が続く。そして夕食と入浴の2時間休憩をして夜7時から9時まで勉強が続くのである。
「詠歌道」にはご詠歌と和讃の二種類があり，二つとも鎮魂歌である。 御仏を賛嘆し，先祖を供養し，自分の心を安らかにし，そして即身成仏（生きながら仏になる）修行である。
○ご詠歌
ありがたや 高野（たかの）の山の岩陰に 大師はいまだおわしますなる
高野山 結ぶ庵に袖朽ちて 苔の下にぞ 有明の月
阿字（あじ）の子が 阿字のふるさと立ち出でて また立ち帰る 阿字のふるさと
○和讃
真言宗の宗歌である「いろは歌」は弘法大師が詠まれた歌であり，行事が行われるときには必ず全員でお唱えする和讃である。
色は匂へど散りぬるを 我が世たれぞ常ならんむ
有為の奥山今日越えて 浅き夢見じ酔（え）ひもせず。
〈 咲き匂う美しい花もやがては枯れて散ってゆく。この世に生まれた人で永久に生きる人など誰もいなく，みんな死んでゆくのだ。だからこの世（有為）の人間の欲望（奥山）を今すぐ捨てて，目先の迷いの浅い夢に酔いしれず正しい道を歩んで行きなさい。（「奥山」は物欲，財産欲，地位名誉欲，愛欲など，人間がしがみついてなかなか捨てがたい欲望を，深い山に迷いこんだら出て来られない山奥に例えたもの。） 〉
何回も繰り返して曲を覚え，和歌の解説を勉強する。一日中正座しているので足がしびれ畳がかみついてくるような苦痛に耐えての長い時間が続くのである。それでも止める気にはならなかった。みんなと共に勉強したから，15年も講習会に出席し続けられたのだと思う。今日再会した4名の友達はご詠歌が大好きで，出入りが激しい講習生の中で毎回出席した仲間であり，ご詠歌にのめり込んでいった人たちである。講習会への出席を止めてもご詠歌という同じ趣味を通じて心が結びつき，会えばご詠歌を唱えて友情が深まってゆく。
神山温泉で一泊し，翌日はわが家で泊まり，心が満たされて帰って行った。
詠歌友達との再会
田中 富榮（徳島県徳島市）
高野山大師教会で共にご詠歌を習った友達のＡさんから，一度会いたいねと電話をいただいた。そういえばあの頃楽しく付き合った詠歌友達と，もう5～6年会っていない。春秋の年2回開催される高野山詠歌一般講習会にいつも出席していた友達4名は15年間講習に通い続け，大師教会で合宿し，4泊5日寝起きを共にして勉学に励んだ仲間であった。久しぶりにみんなが寄り合ってご詠歌を唱えたいと思った。四国には「四国霊場88ヶ寺札所」があり，徳島県は発心の道場と呼ばれ1番～23番までの札所が地域に点在している。わが家の近くには17番札所井戸寺がある。友達をわが家へご招待して井戸寺の本堂と大師堂の前でご詠歌をお唱えし，お大師さんに聴いていただいたら心が晴れるなあと思った。善は急げとばかりに早速私は4名の友達（神戸，岡山，名古屋）に連絡をした。
せっかく四国へ詠歌友達がやって来るのであるから，遍路ころがしと言われている難所中の難所，神山にある12番札所焼山寺の奥深い山のてっぺんで思う存分ご詠歌を唱えてみたい気持ちになった。今年は詠歌友達も80歳の傘寿を迎えている。焼山寺参りはこれが最後になるかもしれない。是非みんなを案内したいと夢が膨らんだ。そして神山へ行くからには緑の木々に包まれた神山温泉で一泊して，詠歌講習会の思い出話を語り合いたい。懐かしい高野山の風景や奥の院やおいしい「かさ国屋」の饅頭など講習会の度にみんなと歩いた高野山の町が浮かんできた。
再会を心待ちしていたその日（1月15日），徳島駅で4名が出会い，知り合いのＮさんの運転で焼山寺へ向かった。久しぶりの再会でありみんな興奮気味だった。今年の冬は暖冬であり，天気もよく，こんな美しい山の中でご詠歌が唱えられるのは幸せだと喜んでいた。 私たちは焼山寺の本堂と大師堂の前で一列に並び， 般若心経一巻上げ，続けてご詠歌「金剛」「光明（こうみょう）」「梵音（ぼんのん）」，次に和讃（仏や菩薩の徳行を歌で教え賛美したもの）「いろは歌」「相互供養和讃」「法悦歓喜」など声を張り上げて次々お唱えした。懐かしい講習会の情景や講師の先生方や一緒に学んだ多くの友達の顔が目に浮かんだ。唱え込んだ私たちの声は静かな山に響き渡ったのである。心も体もスカッとして気持ちよかった。
ご詠歌は「行」であるから高野山では朝5時に起き，下座行（清掃）をしてそれから朝食，8時半からご詠歌の授業が始まり昼食の1時間の休憩を除いて夕方5時まで勉強が続く。そして夕食と入浴の2時間休憩をして夜7時から9時まで勉強が続くのである。
「詠歌道」にはご詠歌と和讃の二種類があり，二つとも鎮魂歌である。 御仏を賛嘆し，先祖を供養し，自分の心を安らかにし，そして即身成仏（生きながら仏になる）修行である。
○ご詠歌
ありがたや 高野（たかの）の山の岩陰に 大師はいまだおわしますなる
高野山 結ぶ庵に袖朽ちて 苔の下にぞ 有明の月
阿字（あじ）の子が 阿字のふるさと立ち出でて また立ち帰る 阿字のふるさと
○和讃
真言宗の宗歌である「いろは歌」は弘法大師が詠まれた歌であり，行事が行われるときには必ず全員でお唱えする和讃である。
色は匂へど散りぬるを 我が世たれぞ常ならんむ
有為の奥山今日越えて 浅き夢見じ酔（え）ひもせず。
〈 咲き匂う美しい花もやがては枯れて散ってゆく。この世に生まれた人で永久に生きる人など誰もいなく，みんな死んでゆくのだ。だからこの世（有為）の人間の欲望（奥山）を今すぐ捨てて，目先の迷いの浅い夢に酔いしれず正しい道を歩んで行きなさい。（「奥山」は物欲，財産欲，地位名誉欲，愛欲など，人間がしがみついてなかなか捨てがたい欲望を，深い山に迷いこんだら出て来られない山奥に例えたもの。） 〉
何回も繰り返して曲を覚え，和歌の解説を勉強する。一日中正座しているので足がしびれ畳がかみついてくるような苦痛に耐えての長い時間が続くのである。それでも止める気にはならなかった。みんなと共に勉強したから，15年も講習会に出席し続けられたのだと思う。今日再会した4名の友達はご詠歌が大好きで，出入りが激しい講習生の中で毎回出席した仲間であり，ご詠歌にのめり込んでいった人たちである。講習会への出席を止めてもご詠歌という同じ趣味を通じて心が結びつき，会えばご詠歌を唱えて友情が深まってゆく。
神山温泉で一泊し，翌日はわが家で泊まり，心が満たされて帰って行った。
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