有限会社 三九出版 - 秘策・モグラの孔封じ


















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☆《自由広場》 

             秘策・モグラの孔封じ 

              前岡 光明(東京都町田市) 

 「権兵衛が種まきゃ、カラスがほじくる」という文を覚えている。童話の一節だったろう。子供心には、滑稽な,間抜けな農夫の仕草に映っていたが,今になって,これは,悲痛な、自虐的な話だと思い知った。
 私は権兵衛の身になったのである。
 引退してから,わずかばかりの畑に野菜を育て楽しんでいる。我が畑も,カラスにやられた。最初の年,私がエンドウ豆を播くとすぐに,鳥の足跡がついている。ひと畝しか植えない貴重なエンドウだ。購入した種子は,殺菌剤に浸されたどぎつい緑色で,あんなものを食べたら腹をこわそう。利口なカラスだから,一個ついばめばわかるだろうと,期待していた。でも,エンドウは三分の一ぐらいしか芽が出なかった。
 昨今の農家はカラス対策としてネットを張っているが,そこまで大げさなことはやれない。それで,エンドウは,二畝,植えることにした。
 去年は,カラスにトウモロコシの実をかじられた。一本かじられて,息子が周囲にテグスの糸を張り巡らしてくれた。今年はテグスを張る暇がなかったので,心配していたが,やはり一本だけの被害で済んだ。
 カラス対策の種播き方法は,あった。エンドウにしろ,トウモロコシにしろ,種を三粒とか四粒ずつ播くよう,袋に書いてある。発芽率が低いのだ。でも,せっかく芽が三本も四本も出たのを間引くのはやるせない。そして,一本も出ないところもある。そういうことなら,「一粒か二粒ずつ植えて,芽が出ないところに,すぐ次の種を播いたらどうなの」と妻の提案。来年はそれで行こうと思う。
 農業には,さまざまな敵が現れる。無農薬をめざしたが,チョウチョ,テントウムシダマシにやられてしまう。木酢液,たばこの煮出し汁など振りかけてみたが,すぐ効かなくなる。種子を播いて,やっと芽を出して本葉が何枚かになった段階で虫に食われる。一度虫にやられると,その苗に次々にたかってくる。勢いの衰えた葉っぱは食べやすいのか,あるいは,抵抗物質の分泌が少なくなって,おいしいのだろう。他の元気のよい苗は無事である。
 そうは言っても,弱った苗を食べつくせば,すぐに隣りの苗に虫がたかりだす。
そんなわけで,ジャガイモ,キュウリ,トマトなどは,市販の殺虫剤スプレーを,小さいうちに一,二度殺虫剤をかけざるを得なかった。大きくなれば,少々虫に食われても大丈夫。でも,大葉とか,菜っ葉とかは,虫食いだらけになってしまう。
ともかく完璧な無農薬栽培は,素人農家でも無理だ。
 そして,連作被害という思いもよらぬ障害があった。里芋も,ジャガイモも,エンドウも,トマトも,これでやられた。それで,去年から,トウモロコシとサツマイモを植えている。
 我が畑にもう一つの悩みがあった。モグラだ。
 富士山の黒い火山灰の土質で,ガラス質の尖った粒子があってミミズが住みにくそうである。落ち葉の堆肥を多量にすき込むと,いつのまにかミミズが居る。すると,モグラが畝に沿って孔を掘る。表面にひびが入るのでわかる。
 最初は,鍬の柄で突いて固めたり,足で踏みつけたりして,孔を潰した。苗が植わっているから全面的に潰すわけにはいかない。また,とても手間のかかる作業だった。潰してもすぐモグラの孔は復活する。
 エンドウ豆がやられた。つるが伸びてもすぐにいじけて,いくつか実がなったが,枯れてしまった。根の周りに空洞があっては,エンドウもたまらない。
 ゲームセンターの「モグラ叩き」を,思いっきり叩いてみたくなる。
 それで,考えて,一昨年は,畝を造る際に,空のペットボトルを何本か並べて横断壁を造った。このときは,連作の疲れが出て,エンドウも,ジャガイモも,里芋もダメだったが,インゲンはたくさんとれて,ペットボトルの効果はあった。
 しかし,手間がかかる。それで,また,考えた。今年は,トウモロコシの畝,インゲンの畝にモグラの孔を見つけたら,ビニール袋を丸め,あるいは,少し土を入れて2,3m置きに孔に詰めた。もちろん,その周りは踏み潰した。
 大成功だった。
 モグラはビニールを破ろうとするだろう。いくら引っ掻いても,無駄な努力だ。その部分を迂回するしかないが,そんな知恵はなかろう。
 「ビニール袋によるモグラの孔封じ」,素人の発明だが,ぜひお試しあれ。
家庭菜園は楽しい。そして,自分で育てた野菜はおいしい。 


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