有限会社 三九出版 - 我が家の夏みかん


















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我が家の夏みかん
国政 幸子(千葉県柏市)

毎年3月になると,恒例のマーマレード作りが我が家で行われる。これはもう,立派な年中行事の一つとなって,その地位を揺るぎないものとしている。
狭い庭の隅に植えられた夏みかんの木が,数個の実をつけたのは10年程前であったろうか,はっきりとは記憶にない。つまり,食べるには余りに酸っぱくて見向きもされなかったのである。春一番,二番の強い風が吹いた翌朝など,地面に落ちているものを見つけ,もう収穫の頃かとすべて枝からもいで台所に置いても誰も食べない。その内に何処かへ片付けられてなくなっていた。その夏みかんが脚光を浴びるようになったのは,7,8年前お隣りがどこかの農家から夏みかんを購入して1年分のマーマレードを作るという話を聞いた後からであった。その作り方は,まず,夏みかんの皮を剥き,適当な大きさに切り,実を取った中袋と共に沸騰するまで茹でること数回。その後,実と砂糖を加えて,かき混ぜながらジャム特有の飴色になるまで煮詰める。出来上がったマーマレードをガラス瓶に注ぎ完成。その味は本当に美味しく,夏みかんの皮の歯応えもあって,どの有名なお店にも引けを取らないと自負している。
現在,我が家の夏みかんは,少しずつその数を増やし,今年は100個近くも実をつけた。冬に行う寒肥は主人の担当である。剪定はほとんどしない。消毒は一度もしたことがなく,正にほったらかしの状態である。特別な手入れもしないためか,背丈もそれ程大きくならず,私が手を伸ばすだけでたやすくその実を取ることができる。常緑樹のため一年中葉を落とさず,冬の殺風景な庭でしっかりと黄色い果実をつけて,存在感を示している。また,4月の下旬になると白い花を咲かせて辺り一面に柑橘類特有の爽やかな芳香を撒き散らす。その匂いは庭の沈丁花,バラ,金木犀よりも芳ばしい。
夏になると木の下には若荷が生い茂り,やがて,根元から小さな花穂を出す。雨の後などは一度に10個も見つかって,主人の酒の肴として食卓を賑わすのである。
恒例のマーマレード作りの日は,友人達が大きなガラスの空き瓶と砂糖を持参して,やってくる。遠方からの数名は前日から泊り込みである。当日は大変な忙しさで,途中昼の宴会を挟んで(これもまた楽しみの一つ),夕方遅くまでマーマレード作りは続く。お世話になった方々に差し上げると,一様に感激して,来年もと空き瓶を返してくれたり,夏みかんの木を植えた人もいて,今や,夏みかん様様である。


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