有限会社 三九出版 - 正直は損,人のうわさも四十五日


















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☆新作●現代ことわざ〕 

            正直は損,人のうわさも四十五日 

               吉岡 昌昭(埼玉県さいたま市) 

 貴乃花が角界を去った。昨年,鳥取巡業中に,弟子の貴の岩が横綱日馬富士による傷害事件(頭部裂傷等)に端を発し,協会といろいろ争っていたようだが,その後自分の部屋での暴行事件が表沙汰になり,協会から降格処分があり自ら反省を込め一年寄りとして仕事に励んでいた。しかし,協会親方衆はどうも面白くないようで,貴乃花いじめが続いていたようである。協会側は「いじめや排除はない」と言うが,客観的に見ていると協会発言の方が分が悪いように思う。
 そもそも或る社会,団体では事あるごとに組織が優先し,アンチ組織は嫌われ排除の論理が働く。私は長いことサラリーマンをやってきたが若い頃は恐いもの知らずで,自分の信念の赴くところ上司に意見具申をし,「正直は最善の策」と信じ,報告書には決して嘘を書かず,物事も是々非々で対処し,失敗も正直に申告してきた。結果,奴は嘘をつかん,ということで上司の覚えめでたく,つらいながらも楽しい会社員生活だった。ところが,30代半ばで金融界に転職した途端全く変わった。そこは理屈の世界で,自己保身が強く失敗即アウト,減点主義でことごとく昇進,賞与に響いてくる。特に管理職になってからは上の方針に従わないと左遷は必至,私も何度も痛い目にあった。貴乃花も「我慢すればいずれ花が咲く」「ここは辛抱して……」という声があるが,それはそれ。彼の良さはまじめで正直なところである。だが,そういう性格が組織にとって邪魔になるのも事実であり,時として惨めな結果を呼ぶ。政治の世界も同様で,自民党本部(=安倍総裁)の意向に逆らえば冷や飯を食わされる。でもそれは当たり前で世の中は常に利害関係者の論理で動いているのである。
 子供の頃「正直であれ!」と教わってきたが大人になってみれば嘘ばっかり。そして嘘が上手な奴が出世する。森友事件の佐川元理財局長,加計学園疑惑での柳沢元首相秘書官,いずれも国会で立派に嘘らしき答弁をしたが,それはテレビ中継で大衆の眼にさらされており国民は皆知っている。でも役人は動じない。彼らは自分の集団の中の論理で動いており,世間はお構いなし。という事はまさに井蛙である。しかし,塀の中から覗く空は青いし塀の外にいる人たちの見ている空も青い。かつて人の噂も七十五日だったが,近頃は四十五日という事か,否もっと短くなっている。 




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