有限会社 三九出版 - 「 相 談 」


















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             「 相 談 」

           叶 玲子(埼玉県川越市)


 現在,私は市役所の市民相談員の一人として「一般相談」に微力を尽くしている。そして常により良い相談のあり方を模索し,相談の質を上げようと心がけてはいるが,実際にはどれほどの成果が上がっているのか分からない。そこで,「相談」ということに焦点を当て,改めて考えてみようと思う。
 「相談」とは,きわめて一般的,日常的な平易な言葉であるが,因みに辞書を引いてみると「自分に何か問題が起こった時、他の人の意見を聞くことによって、解決する」とある。 確かに自分の心に不安や未解決の問題を抱えた時,信頼する人や友達に話したり訊いたりすることによって,心の扉を開き,解決の糸口を見出して未来への希望に繋がったことを自分も経験している。
 この仕事に携わってみると更にその思いが深まり,より良い相談とは何か,どうすればよいかを私なりに考えてみようと思った。
 家庭裁判所の調停委員として定年まで勤め,その後この仕事に携わらせてもらったが,両者には勿論共通点はあるものの,大きな違いがある。家事調停では,申立人と相手方双方の言い分を聞き,裁判官の同席のもとに調停を成立させるのに対し,市役所の一般相談の場合は,一方的なもので,そこに相違点があると思う。
 メンタルヘルスの本などを参考にして,相談を受ける時,心がけていることを述べてみたいと思う。 先ず大切なことは,相談者からの事情の聴き方である。

○ 相手に寄り添って話を聴く。 相談者によっては,初め緊張して何をどう話していいか分からない場合も多いので,先ず相手の立場にたって,事情を正確に聴き取ることが必要である。  ○ 話を知的に聴いて,分かりやすく説明する。 相談者の話は時として感情的で稚拙な場合もあるので,その受け止め方が難しい。  ○ 分かったつもりにならない。 聴く姿勢として,不明な点は確認しないと的外れな答えになるので,聞き返すことは失礼ではない。
○ 良かれと思いこみ,相談者が欲していないことを強要しない。
相談者の精神的な問題や金銭的問題の実情も考慮する必要がある。
○ 正しい知識,社会的常識が必要である。
回答の内容が個人的好み等に偏ってはならない。宗教的な問題は避ける。等々。

 相談は電話または来所で,内容については私の場合,家族や職場でのトラブルや自分の精神的・肉体的悩み等が多い。相談には守秘義務があり,本人が名乗らない限り住所も名前もわからないが,継続者の場合は自ずと親近感もうまれてくる。
 中には相談員との会話を,貴重なコミュニケーションの一つとしている人もあり,「人生いろいろ」の感を深くする。新興住宅地などでは隣家の騒音や人間関係のもつれ等の苦情も多いが,出来るだけ温かい人間関係が構築されるような案をすすめている。

 振り返ってみると,この仕事を通して人間の心理,社会の裏面等をより深く学ぶ機会を得られたことに感謝している。
 簡単ながら,「相談」ということに焦点を当てて考えてみたが,この仕事も年齢的に残余期間も少なくなった今,可能な限り真摯に取り組んで,相談者の思いに沿っていきたいと思っている。

 相談をうけていると,その都度いろいろな感情が湧いてくる。そんな思いの一端をつたない短歌に詠んでみました。
○ 相談を 受ける受話器に耳を寄せ 媼の嗚咽の静まるを待つ
○ ひたすらに 心を寄せて聴きおれば 媼にもどる声の明るさ
○ 心張り 駅へと急ぐ極寒の 今朝も吾待つ仕事のありて
○ 相談の 仕事の重さ 抱えつつ 半月淡き 道帰りくる
○ 公衆の電話か 悩み聴きおれば 硬貨の落つる 音の侘しき

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